STUDY
多世代シェアハウスから考える教育と介護の未来「ポートランド・Bridge Meadows」
2019.09.25
アメリカのノースポートランドにある「Bridge Meadows」。親のいない子どもたち、その里親たち、シニア世代の人々が一緒にひとつのコミュニティを形成している場所だ。
やわらかな光が差し込む施設のロビーで、ここに暮らしているシニア世代の男性が、ディレクターであるDerenda Schubertさんに話しかけている。「みんなが創ったアート作品をもっと飾ろうよ。2階のホールまで作品を広げてさ。絵を飾るフレームだって買ってくるよ」。すると、エレベーターの方へと歩いていた住人の女性が気付いて、その会話に加わる。住人同士が立ち話をしたり、アイデアをシェアしたりすることは、2011年4月にオープンして以来、よく見られる光景だ。
このような複数世代が同居する住宅施設は目新しいコンセプトではない。しかし、アメリカでは2050年までに65歳以上の人口が今の2倍になると予測され、所得が低い高齢者や独り暮らしの高齢者が増えていく。今後、高齢化の時代をどう生きるかは大きな課題だ。
また、親のいない子どもの多くは自分の家族が欲しいと願っており、学習や行動に関する課題を抱える子も多い。里親たちは養子とより良い家族関係を築くのに苦心する。ここBridge Meadowsではこれらのそれぞれの課題を補い合える環境づくりをしている。
ディレクターであるDerenda Schubertさんは「Bridge Meadowsで生活するには、他人とつながることやコミュニティの一員となることに積極的であることが必要ですね。そのような方は、コミュニティ内で豊かな生活が送れると思いますよ」と話す。現在は、30名の子ども、9名の里親、30名のシニアという合計69名が大家族として一緒に暮らしている。
多世代シェアの可能性を考えることは、未来の教育や介護のあり方にも通づる
Bridge Meadowsでいう「シニア」の定義は、55歳以上の人。最年長の居住者は92歳である。就労中のシニアもいるが、定年退職後のシニアがほとんどだ。離れた場所に子どもや孫がいるという人も多いが、そんな中でBridge Meadowsを選んだ理由として、手ごろな家賃やコミュニティ内で生活できるチャンス、若者や元気な家族の周りにいたい、という点があがるのだそうだ。ここに住むには22ページにもわたる書類を記入して応募し、身元調査をパスしなければならない。しかし、難しい条件があるわけではないので、入居希望の順番待ちができるのだという。
必要条件のひとつに3カ月あたり100時間というボランティア活動がある。そこに魅力を感じたというシニアもいる。活動内容は多岐に渡る。コミュニティの仲間の通院の送り迎えをしたり、エクササイズを教えたり、コミュニティ内の図書館を整理したり、放課後の子どもたちに宿題を教えたり。里親が忙しいときは、子供たちの面倒をみたりもする。ここに来たシニアの中には、社会でもう相手にされていないように感じていたという人が多い。社会に「必要とされる」ことが生きる意味や目標をもたらすのに重要な役割を果たすのだ。
一方で、養護施設で育つ子どもたちには、信頼できて心の支えとなるような大人が周りに少ない。自分の家族がいて、自分のことを気にかけてくれる人がいると、子供の学力は向上することが研究によってわかっている。ここでは子供全員が学校へ通い、85%の子供の成績が向上したそうだ。
若者と年長者が同じ場所にいると、そこにうちとけた会話の機会がうまれ、歴史や自分のルーツについて思いを巡らせると同時に、希望や未来についても考えられる。さまざまな世代の人々が一緒に生活することは、どの世代にとっても有益である。
また、養子を育てている里親は週に一度カウンセリングを受けることができる。子どもたちや周囲の人たちとの経験をシェアすることができ、フィードバックやアドバイスを受けられる。そこで得た気づきによって、多様性への理解や認識に関するワークショップ、親がいない子どもの心の発達や心の傷に関するワークショップを開催することにもつながっている。
もちろん、すべての人にこのコミュニティのスタイルが合うわけではなく、なかには施設を出て行った人々もいる。コミットメントは重要だと住人は口を揃える。他人との境界線は曖昧になる上、人間関係が必ずしもうまくいくわけではないので、人との距離が近いこの環境に住んでいたいと強く思わなければ続かないのも事実だ。
用地取得時には近隣住民に反対されるなど、Bridge Meadowsの組織にとっても、平坦な道のりではなかった。しかし、2013年にはBridge Meadowsの近くに「New Meadows」という名称で、児童養護施設から自立を目指す若者のための施設をオープンした。そして、2017年8月には、ビーバートンという近くの町で新たな施設をオープンさせ、9組の家族、32名のシニアを受け入れる予定だ。このような思いや取り組みが着実に前進しているといえるだろう。
とはいえ、養護施設で親を必要としている子供はまだ何千人もいるし、低所得の独居シニアも増加する。Bridge Meadowsだけで問題解決できるわけではない。しかし、多世代にわたる大家族というコミュニティの構成や、複数の社会問題に取り組むという姿勢は、同じような課題に向き合う人たちにとって成功したモデルとなりうるだろう。
(許諾/転載:bridgemeadows,walshconstruction,yesmagazine /YADOKARI)