STUDY

地域住民と一緒に創っていく、コミュニティビルディングを可能にする「デジタル・ファブリケーション」の進化

2019.05.18

公園、広場などの公共空間の設備やエレメントを地域住民と一緒に創っていく。そんなコミュニティビルディングを可能にする「デジタル・ファブリケーション」の進化が、欧米を中心に注目を浴びています。

3Dプリンタなどをつかった「デジタル・ファブリケーション」(デジタルによるものづくり)は、個人を「つかうひと」から「つくるひと」へと変える「パーソナル・ファブリケーション」のトレンドを生み出しました。そして、ものづくりのためのデザインや知識をネットワークでシェアする、「ソーシャル・ファブリケーション」というムーブメントが起きています。

アメリカの非営利団体 Better Block(ベターブロック)が立ち上げた、「Wikiblock(ウィキブロック)」が提供するオープンソースのツールキットの持つ意味を考えていきましょう。

コミュニティのための場づくりを考える「プレースメイキング」

Better Blockが2016年に立ち上げたWikiblockは、ベンチ、イス、プランター、ステージ、バス停、ポップアップ・ショップなど30種類以上のパブリックスペース向けのデザインデータをオープンソースとして公開。だれでもインターネットでダウンロードして組み立てることができます。

データを工作ショップに持ち込み、CNCルータと呼ばれるコンピュータ制御の工作機械で合板を切断し、切り出された各パーツをジグソーパズルのように組み立てます。DIYや建築のスキルも不要。接着剤や釘を使うことなく、現場ですばやく組み立て・分解が可能なキットです。

Better Blockのジェイソン・ロバーツは、Wikiblockをはじめた理由をこう語ります。
「コミュニティの場のためのいろんなツールの製作の敷居を低くしたかった。CNCルータがあるメーカースペースさえあれば、建築家や大工、建設業者なしに、住民だけでものづくりができるようにしたかったんだ」

アメリカ・セントポールのポップアップ野外シアターでは、住民たちによるWikiblockの検証実験が行われました。

自分たちの街のデッドスペースを地域の住民の手で活性化させること。ここには、「プレースメイキング」というコミュニティのためのサステナブルな“場づくり”の考え方が生かされています。そして、デジタルによるものづくりをオープンにすることで共有し、世界中のコミュニティが有効活用できる試みにもなりました。

DIY(Do It Yourself)からDIWO(Do It With Others)へ

MITメディアラボのニール・ガーシェンフェルドの『ものづくり革命』や、クリス・アンダーソンの著作『MAKERS』が紹介したメイカームーブメントが世界中で進行しています。「つかうひと」と「つくるひと」の垣根がなくなり、FabLab(ファブラボ)のような工作機械を備える実験工房で、だれもが自由にものづくりが行える時代が到来しつつあります。

ソーシャル・ファブリケーションとは、パーソナル・ファブリケーションにソーシャルメディアとオープンソースを取り入れた「みんなでシェアするものづくり」。FabLabの提唱するDIWO(Do It With Others)のスタイルです。

製作体験を共有してコミュニティを活性化

アイデアやリソースをシェアするだけでなく、場づくりのための製作体験を住民が共有すること。ジェイソン・ロバーツがWikiblockに込めたねらいです。コミュニティの住民たちがツールキットを通して地域の活性化プランを練り、データをカスタマイズしたり、ダウンロードしてテストする。そして、その場でみんなでいっしょに組み立てる。役割が終わったら分解して撤収する。こうした一連の共同作業を通して、コミュニティを活性化しようという意図です。

Wikiblockの住民参加のものづくりを通したボトムアップなアプローチは、ソーシャル・ファブリケーションの“ソーシャル”という意味に新しい価値をあたえるものかもしれません。

(許諾/転載:Better Block(wikiblock),popupcity,smart-magazine/YADOKARI)

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