STUDY
都市と自然の関係性を再考する。古い煉瓦工場をリノベーションした、トロントの「Evergreen Brick Works」
2019.08.11
カナダ最大の都市、トロント。トロントには「401 Richmond」や「the Distillery District」など、古い産業建築をうまくリノベーションした事例が多く存在します。その中でも特に地元民に愛されているのが、ダウンタウン北東のドン川沿いの公園にある「Evergreen Brick Works」という施設です。
都会に住んでいると、ついつい田舎や自然の存在を忘れてしまいがち。しかし、私たちの都市は、生物多様性と自然との共生のなかで成り立つ必要がある。そんなことを改めて考えさせられる場所です。
カナダの自然の恵みを体験できる、「Evergreen Brick Works(エバーグリーン・ブリック・ワークス)」
「Evergreen Brick Works(エバーグリーン・ブリック・ワークス)」は、カナダ全土で活動する環境保護団体「エバーグリーン」が、1980年代に閉鎖されたレンガ工場とその材料採掘跡地周辺をリノベーションして始まったプロジェクトです。しばらく廃屋工場と化していたこのエリアは、自然環境にちなんだ展示や催し物を開催できる多目的スペースとして、2010年に新たなスタートを切りました。カナダの自然の恵みと、都市と自然の関係性について、学んで、見て、食べて体験できるスポットです。
煉瓦工場がオープンしたのは、1889年。1980年代の閉鎖まで、約100年に渡って煉瓦をつくり続けました。「マッセイ・ホール(Massy Hall)」や「カサロマ(Casa Roma)」といったトロントでお馴染みの歴史建造物の多くが、ここで作られた煉瓦を使って建てられています。歴史的な重要性を考慮し、工場跡の雰囲気はそのままに残しつつ、ドン川沿いの材料採掘跡地は、工場が出来る前の元の自然を取り戻した公園として解放されています。
エコに興味がなくても、「自然と都市との共存」を楽しみながら学べる
「Evergreen Brick Works」では、自然環境に関わる様々な展示やイベント、ワークショップが定期的に行われる他、毎週土曜日にはファーマーズ・マーケットが開催され、地元の農場で作られたオーガニック野菜や食材を買い求めることが出来ます。地元の新鮮&旬の素材を使った料理、スイーツ、スナックなどもあり、まさに「地産地消」を体験できる場所です。
施設内には、オーガニック食材などをふんだんに使用したカフェや、子供のための遊び場なども。元々エコに興味がなかったとしても、マーケットを楽しみながら施設内を歩き回り、自然と都市との共存について学べる仕掛けになっています。
トロントを定義するのは、渓谷
そもそも、トロントの地理と都市の発展を語るのに、峡谷システムの存在は欠かせません。トロント地方(GTA=Greater Toronto Area)には、渓流・渓谷という自然遺産が数多く存在します。街を囲むように位置する渓流・渓谷エリアは、20世紀初頭にゴミ捨て場や産業利用のために使用され、環境汚染が進み、打ち捨てられたエリアでした。現在では、エコロジカルサービスとリクリエーションスペースの提供場所として、この渓谷エリアの利用促進に注目が集まっています。
峡谷沿いにある「Evergreen Brick Works」は、まさにこうした渓流・渓谷エリアの再利用と自然遺産の保護を率先して行っている事例。かつては煉瓦の材料採掘跡地として汚染されてしまった渓流・渓谷エリアの自然を復活させた公園で、ウォーキングツアーや、ヨガクラス、スケートなどを楽しめます。都市部から決して遠くはない渓谷・渓流エリアの活性化を通して、市内から小一時間ほどで、山奥まで来たかのような自然をいつでも満喫することができるのです。
グーグルの姉妹企業、「Sidewalk Lab」が手がける沿岸部の再開発事業などが注目を集めるトロント。テクノロジーを使った最新のウォーターフロント開発も魅力的ですが、自然と都市の共存、といった一見地味なプロジェクトを通して、都市における人々の生活の向上を図る、というトロント市の動向からは、私たちも学べることが多くありそうです。
(許諾・転載:Traveling Circus of Urbanism / Photo ©︎ MARIKO SUGITA)