STUDY
行政と市民の間に、対話の機会をつくる。メキシコのまちづくり団体、「Laboratorio de Espacio Público en México」の取り組み
2020.08.29
近年、日本でもさまざまなまちづくり団体や活動が誕生し、欧米を中心に、多くの海外事例に触れる機会も増えてきました。アメリカやヨーロッパの事例が多いなか、日本ではまだ知名度は低いですが、アジアや南米、アフリカにも、面白い取り組みはたくさんあります。今回は、メキシコのまちづくり団体「Laboratorio de Espacio Público en México」をご紹介します。
Laboratorio de Espacio Público en Méxicoとは?
地方自治体や教育機関と連携して活動するメキシコの団体「Laboratorio de Espacio Público en México」。「メキシコの都市を元気にし、パブリックライフの質を高める」をミッションに2017年から活動を開始し、都市計画に関するコンサルの他、市民参加を促すための取り組みを行うチームです。
若者が中心となった5名のコアメンバーのほか、プロジェクト毎にチームを再編し、地域コミュニティからボランティアを集うなど、フレキシブルな組織形態を採用。これまで、メキシコシティを含む国内の18都市で活動してきました。
主に注力しているのは、都市開発や都市デザインのプロセスにおける市民参加。パブリックスペースやモビリティなどのテーマで、タクティカル・アーバニズムにる都市介入や、市民に向けた2〜3日のワークショップ、教育プログラムの開発などを行っています。特に、メキシコの諸都市では、治安や公衆衛生が大きな議題になることが多いと、リーダーのAri Fernando Valerdiは話します。
例えば、プエブラ市のSan José Mayorazgo地区で行われたプロジェクトでは、タクティカル・アーバニズムの手法を用いて道路空間の質を向上させ、犯罪率を下げることに取り組みました。車の交通量の多かった通りを、遊歩者を優先したデザインにつくりかえ、タクティカル・アーバニズムの手法で住民参加を促すことで、このエリアでの犯罪率が激減したと話します。
また、中心市街区にある川を活性化し、都心における水辺のデザインをすると同時に、川を巡る開発の歴史や人々の記憶を掘り起こす活動を行ったり、自転車活用と交通量の拡散を目的としたプロジェクト「BiciBus」など、意欲的な活動を行っています。
道路に市民と共に絵を書く様子など、メキシコらしいカラフルな色使いに、見ているだけで心が元気になりそうです。
ユーザーマップを活用する、彼らの手法論
「都市は有機的に成長していくもの。日本のメタボリズム運動に影響を受けつつ、ここに、市民参加やコミュニティエンゲージメントを組み込んでいきたい。それが私たちのアプローチです」とAri。
プロジェクトが始まると、まずは開発や管理に関わる行政や企業などのステークホルダーだけでなく、実際にその空間や街を使用するユーザーを中心に、ユーザーマップを書くことから彼らの活動はスタートします。このマップをもとに、ユーザーである市民に、具体的に何が必要なのか、どんな街に住みたいのか、ワークショップなどを通して聞き出していきます。
「ユーザーマップを元に聞き取りを行うと、当初の行政側の仮説とは異なる事実が出てくることも多いです。例えば、自転車レーンを作ろう、というプロジェクトで市民に聞き取りを行っていると、自転車レーンよりも、治安をなんとかして欲しい、という声が多いこともしばしばです。行政側と地域住民の間のギャップを、私たちが間に入ることで、コミュニケーションを円滑にしています」とAriは説明します。
「地域コミュニティに入っていくと、特に50〜60代の男性が、イノベーティブなことを試みたい若い層の障壁になっているなど、コミュニティ内でも気づかされることが多いです。現地で気づいたこうしたダイナミクスもユーザーマップに含めていくことで、より深い考察が行えます。」
面白い事例は、欧米だけに限らない
Ariは、「アーバニズム(都市の生活様式)は、もっと広く議論される必要がある」と話します。
既に行政側や開発側で決定してしまったことに市民の意見を求めるのではなく、そもそもデザインの過程に、最初から市民を巻き込むこと。
コロナウイルスの影響で、メキシコの都市におけるパブリックライフも、これから大きく変化していきます。予測ができない変化の時代だからこそ、欧米に限らず海外の成功事例にも目を向けていくと、面白い発見があるはず。Laboratorio de Espacio Público en Méxicoの活動をみていると、そんなことを気づかされます。
(許諾・転載:Traveling Circus of Urbanism / Photo ©︎Laboratorio de Espacio Público en México)