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新旧変わりゆく町田で、変わらない結び目に / 町田天満宮 宮司 池田泉さん

2019.06.06

クスノキの香りに誘われて

「なんだか懐かしい匂いがするからこっちへ歩いて来たら、クスノキがあった。この神社があった」

長年暮らした太宰府から町田に引っ越してきたばかりだという70歳の男性が、ある日、そう言って町田天満宮を訪ねて来たそうです。境内にあるクスノキの花の香りに誘われて。嗅覚は記憶と密接な関係があると言いますが、連れ添った奥さんに先立たれ、若夫婦と一緒に暮らすことになって、一人で見ず知らずの町田に来たおじいさんがこの神社で見つけたのは、故郷と同じ安らぎでした。

宮司の池田泉さんは、とても嬉しく思い、感動したそうです。

「田舎から出てきて、たまたま町田に住んで、街にどこから入っていったらいいのか分からない人もいるんですね。そんな人にとって神社は、心休まる場所に違いありません。『地元にあったこんな行事は、こちらにはないですか?』と尋ねる人もいます」

約400年もこの街と共にある町田天満宮

【施設名】町田天満宮(まちだてんまんぐう)
【ジャンル】神社
【ご担当者】宮司 池田泉さん
【所在地】原町田1丁目

町田天満宮の起こりは、おおよそ1580年前後と推察されています。町田は過去、幾度か大火に見舞われており、古い記録が焼失してしまったため明確なことは分かっていません。1853年(嘉永6年)には、京都白川殿から「町田天満威徳天神」の社号を賜ったとされています。

祀られている御祭神は、菅原道真公。学問と書道の神様として全国に広く知られ、古くから子ども達は読み書きの上達を祈願し、商人の間でも篤く信仰されて来ました。受験生には合格祈願の神様として有名です。
*参照:町田天満宮公式ホームページ

池田家は、この町田天満宮に曾祖父の代から仕える宮司の家系です。泉さんが宮司になって、今年で11年目。それ以前はお父さんが80才まで宮司を務めていました。宮司の下には、禰宜(ねぎ)、権禰宜(ごんねぎ)という役職があり、泉さんは大学3年生(20才)頃から、禰宜として30年ほど宮司を支えてきたそうです。

お祭りは、街と人と神社をつなぐ大切なイベント

「時期によってはお祭りの準備で忙しくなります。例えば毎年9月に開催する秋季例大祭では、露天商が100店舗ほど出るので、その方々と打ち合わせをしたり、消防署に届けを出したり。お神輿が街を巡りますから、警察にも書類を提出します」

やはりお祭りやお神輿は、街と密接に関わる重要なイベントのようです。町田は昔からお祭りが盛んな街でもありますが、時代と共に街が変化する中で、その様子に、何か変化はあるのでしょうか?

「お神輿は、昔は8つの同好会の団体が取り仕切っていたんです。その頃はちょっと血の気が多くて、クライマックスの宮入り(お神輿が街を巡った後、神社の境内に入って来ること)では小競り合いも起こりましたが、現在は町内会が主導しており、穏やかなイベントになりました。

お神輿の写真は、毎年カメラマンに撮影していただいています。街の中に昔からある老舗の商店などを背景に撮影するようにしているのですが、そういうお店も減ってきたので、町田らしい光景を写すのが次第に難しくなっていると感じています。

「お神輿は、本来上から見てはいけないものなんです。しかしこれだけマンションが建って、現代的な感覚の人が増えれば、そうも言っていられませんね。
昔はお神輿が通ると、商売をしている街の方が店の奥から走り出て来てくれました。お祭りの日は騒々しいのも当たり前だったんですが、今は住民に配慮しながらやっています。

でも、私としては、新しい住民も大事にしたいと思っています。『お神輿を一緒に担ぎませんか?』という声掛けが、新しい住民の方にとって、街にもう一歩深く入るきっかけになることもあります。

そうは言っても担ぎ手は減っているので、最近は2つの中学校にも参加を呼びかけています。子ども達はとても楽しそうに担いでくれていますよ」

変わっていく町田に、新しい調和を生み出して行きたい

町田を見守る神社の宮司として、街について想うことやこれからの希望を伺いました。

「町田の良さは、箱根、江ノ島、小田原、新宿、渋谷など、どこに出るにも程よい真ん中にあることと、ちょっと離れれば、東京とは思えないような豊かな自然に恵まれていることでしょうか。町田が好きな人は、ずっと好きであり続けると思います。

これから新しい住民の方が多くなってきて転換期を迎えていると思います。強いリーダーシップを持った方々が街を支えてきた時代から、今は新住民も含めて皆で話し合って受け入れていこうという町内会の風も感じます。新しいマンションの住民にも、地域の行事や集まりに関心のある人はいます。変わらない神社があることで、こうした新しい人達ともつながることができると思います。

あと10数年、20数年のうちに、町田は大きく変わって行くでしょう。そんな街を感じながら、新しい調和を生み出していきたい。新旧変わっていく町田の結び目になれればと思っています」

遥か昔から今に至るまで、町田天満宮は、町田の人の心や暮らしに当たり前に根付いているように感じます。街の変化を受け入れ、新しい時代にも人の心に寄り添っていく。町田天満宮は未来においてもきっと、この街の住民の拠り所であり続けるような気がします。

【施設情報】
町田天満宮(まちだてんまんぐう)
所在地:町田市原町田1-21-5
TEL:042-722-2325
URL:https://tenmangu.newsinet.com/

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