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【レポート&動画】「空き家・空き店舗、次世代の活用法」〜建物の1階が市民を動かし、街を変える〜未来町田会議vol.3

2019.12.25

▼イベント動画を視聴できます。レポートと合わせてお楽しみください

空き家・空き店舗、次世代の活用法 (ゲスト:田中元子 / 保志真人)

【レポート&動画】空き家・空き店舗、次世代の活用法 (ゲスト:田中元子 / 保志真人)「空き家・空き店舗、次世代の活用法」〜建物の1階が市民を動かし、まちを変える〜◎今回のスペシャルゲスト自分が住んでいる街の建物の1階を「まちづくり」という視点で考えたことはありますか?�大手チェーンのコーヒーショップ、ファーストフード、牛丼屋など、どこの町に行っても同じような1階の景色。そこのお店に行く理由は、提供されるモノを消費するだけの、モノが「目的」となった世界。これからの時代はモノや情報を「手段」として扱い、”わたし”が作りたい世界を実現させるコトが、自分の暮らしを豊かにするために必要です。今、求められているのが「人との繋がり」です。地域コミュニティなど普遍的な「人との繋がり」や「居場所」の必要性も改めて見直されている昨今においては、飲食・物販が提供できるだけでは物足りない時代が来ています。今回のイベントでは、「1階づくりはまちづくり」をモットーに、住民が自然と主体的になる町づくりを仕掛ける株式会社グランドレベルの田中元子氏をお呼びします。「あらゆる1階(建物・広場・空地など)」をデザインする事で、エリアの価値と市民の健康・幸福を高める事をミッションとしています。▼株式会社グランドレベル公式HPhttp://glevel.jp/そして、もう1人のゲストは、町田・を中心とした武相エリア(町田・相模原・大和・海老名・綾瀬・厚木・座間)にてカフェ、居酒屋、レストランを34店舗展開する株式会社キープ・ウィルダイニング代表保志真人氏をお呼びします。現在は、飲食事業だけでなく、地域のハブとなるホテルや、コワーキングスペースを展開。「この街にないものを創り、あるものを活かす」を基本的な考えとし、人を起点に場作りをされています。▼株式会社キープ・ウィルダイニング公式HPhttps://www.keepwill.com/様々な視点からまちづくりに携わる注目のお二人が考える、これからの空き家・空き店舗の次世代の活用法について伺っていこうと思います。

YADOKARIさんの投稿 2019年12月3日火曜日

Facebook動画で視聴できない方はYouTube動画(こちらをクリック)も視聴可能です。レポートと合わせてご覧ください。

高度経済成長期に、都心へ通勤するためのベッドタウンとして、大規模な団地や住宅地が開発された町田。古くから商業の街として栄えてきた歴史の上に、大幅な人口増と駅前ショッピングビル群の相次ぐ開業が重なり、町田はますます賑わいを見せました。

しかし時代が変わり、大抵の物がインターネットで買えるようになったばかりか、近隣の街にも大規模商業施設ができ、さらに物質的な豊かさだけではない新たな幸せの形を多くの人々が模索し始める中で、「買い物するなら町田」というキャッチフレーズはそろそろアップデートする必要があるのかもしれません。

さらに、雇用形態や働き方が多様化し始めた今、「都心へ通勤する」というスタイルも変化しつつあり、自宅やその周辺のシェアスペース等で仕事をする人も今後増えていくと予想されています。「ベッドタウン町田」としての街の構造も、見直されるべきタイミングが来ていると言えます。

そんな過渡期の町田にある旧市役所跡地の広大な芝生広場「町田シバヒロ」では、市民や町田を訪れる人みんなでまちづくりに取り組んでいくためのきっかけとなるようなイベントを開催しています。

8/31に行われた「空き家・空き店舗、次世代の活用法 〜建物の1階が市民を動かし、街を変える〜」では、「1階からのまちづくり」を提唱し、自らも墨田区のマンション地帯の1階で地域の人が集まる拠点「喫茶ランドリー」を運営している株式会社グランドレベル代表の田中元子さんと、地元である町田・相模原を中心に飲食店、ホステル、コワーキングスペースなどを展開している株式会社キープ・ウィルダイニング代表の保志真人さんをゲストにお招きし、これからの町田のまちづくりについて参加者と一緒に語り合いました。その様子をレポートします!

日常の質が良くなることが豊かさ

田中元子さんは2015年よりプロジェクト『パーソナル屋台が世界を変える』を開始。2016年、株式会社グランドレベルを設立。2018年には墨田区の空きビルを改装して地域の人が誰でも立ち寄れる「喫茶ランドリー」をオープンし、グッドデザイン特別賞グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞、リノベーションオブザイヤー無差別級部門最優秀賞を受賞。

田中元子さんは、高校生から25歳くらいまでの多感な時期に町田をよく訪れていて、この街に育てられたと思うくらい町田への想いがあるそうです。「1階づくりはまちづくり」をモットーに2016年に株式会社グランドレベルを設立し、建物の1階部分と町の地面・道路がクロスする「グランドレベル」から始まるまちづくりを提唱しています。

田中さん「日常の質が良くなることが、私はいちばん素敵だと思っています。何がしたいかではなく、日常をどう暮らしたいか、それが実現できる環境かどうかが重要です。こうしたイベントも打ち上げ花火に終わらせず、今日得たことを日常を楽しむ素材に使ってほしい」

と、初めにメッセージがありました。

グランドレベルは、なぜ大事?

“1階は建物の10%を占めるものですが、人間の経験の90%はそこで起こるものです”(書籍『The City at Eye Level: Lessons for Street Plinths: Extended Version』出版社/Eburonより)。写真は田中さんが墨田区で運営している「喫茶ランドリー」Via:https://kissalaundry.com/

なぜ1階をつくることが、まちづくりにつながるのでしょうか?

1階は公共(パブリック)と私生活(プライベート)が交差する場所だと田中さんは言います。否応なくみんなの目に触れ、自動的に公共性を帯びている存在、それが「1階(グランドレベル)」。

確かに、オフィス、住宅、店舗、公共施設、歩道、公園、駐車場…など、街を構成する要素はたくさんありますが、ふだん私達が「まち」と呼び、誰かと公共の場として共有することが多いのは、目線の高さである1階(グランドレベル)です。

田中さん「グランドレベルに人がいて、会話をしたり活動したりしているかどうかで、町の活気・賑わいは可視化されます。グランドレベルの様子を見れば、その街が楽しいのか、寂しいのか、みんなが幸せを感じられるのかが、如実に伝わるんです」

だからこそ、街にとって1階づくりが重要なんですね!

街の中に人の居場所をつくる

田中元子さんのイベント資料より

単なる家賃収入の一部として、1階を他の階(2階以上)と同等に無造作に扱ってきたことにより、人口は多いのに街の中に人の姿がなく、不気味な状況になっている街が日本にも、世界にも数多くあるそうです。マンションや住宅ばかりが密集するエリアは、ともするとそうなりやすいのかもしれません。グランドレベルに寄り付く所がないと、人は素通りしてしまうのです。

田中さんから、グランドレベルに居場所がうまくつくられて賑わっている街の事例をご紹介いただきました。

世界でも幸福度の高い国として知られるデンマークのオーフスという街は、1k㎡あたりの人口が683人。町田は6071人/k㎡なので、およそ10分の1です。さぞ寂しい街だろうと思いきや、街の中は常に人でいっぱい。人々がおしゃべりしたり、くつろいだり、遊んだりしている楽しそうな光景が、日常的に見られます。

座って囲めるテーブルが街なかに置かれていたり、子ども達が遊べるスケボーパークやちょっとした丘があったりと、人が街に出て楽しむことを促す仕掛け・物が、ちゃんと考えられているそうです。

1階づくりは街の日常を豊かにする

1階づくりをおろそかにしていたロンドン南東部のブロムリー地区で、1階に店舗やベンチを設置するなど人が気持ちよく過ごせる環境を整備したところ、エリアの歩行者数は93%増、カフェや買い物などそのエリアで過ごす時間は216%増という結果に。ビジネスの業績にもコミュニティづくりにも効果があることが実証された。(写真:田中元子さんのイベント資料より)

また、デンマークやスウェーデンの最新の観光戦略は、「THE END OF TOURISM(観光の終焉)」だというから驚きです。このように、「ステレオタイプな観光地めぐりよりも、僕達の日常を見に来てください」という戦略に切り替える国も現れ始めています。

田中さん「ふだんは寂しい街なんですが、とにかく祭りの時は盛り上がりますから祭りの時に来てください、というようなことはやめましょうという示唆に富んだ宣言だと思います。彼らの日常が豊かだから、こんなことができるんですよね。

でも、日常が楽しく幸せだというのは、その街に暮らす人々にとっていちばん素敵なこと。1階づくりは街の豊かな日常をつくること。1階づくりをおろそかにすると、数十年後はみんなが『こんな街にいたくない!』と流出してしまう可能性があると思います」

街のみんなの家事室「喫茶ランドリー」

喫茶ランドリーVia:https://kissalaundry.com/

田中さんは1階づくりの一環として、墨田区にあった築55年の空きビルを改装し、2018年にコインランドリーを併設したカフェ「喫茶ランドリー」をオープンしました。

このエリアはかつて倉庫や工場が建ち並んでいましたが、銀座や丸ノ内にも近い場所であるため土地の評価が高く、マンションが乱立。その結果、人口密度は高くなりましたが、街の中から人の姿が消えてしまったそうです。

そんな街の中に、せめてお茶する所くらいつくれたらと始めたのが「喫茶ランドリー」です。田中さんは「NOターゲティング、NOマーケティング」を念頭に置き、あらゆる人々の居場所となり、みんなが自由で多様であることをお互いに認め合える環境を、モノや空間でどうつくれるか?という実験を始めました。

みんなの「やりたい」を応援する場所へ

近隣の人はマンション暮らしで家事環境がそれほど豊かではないので、「たまにはちょっと豊かな所でみんなとお話ししながら家事をするのはどう?」という提案を、田中さんは「喫茶ランドリー」という場をつくり、街へ投げかけた。Via:https://kissalaundry.com/

そのうち喫茶ランドリーに来てくれる人達から出てきた「ここで何かやりたい、展示してもいい? パーティーしてもいい?」となどの声に対して、許可するだけでなく「よしやろう!いつやる?」と全力で応援し、小さなことでもとにかく実現させるということを積み重ねました。

その結果、半年経つと、プロではないごく普通の主婦達が「私でもこんなことできちゃった」と言ってくれるようなことが100以上、この喫茶店で実現できていたそうです。側から見れば小さなことでも、その人にとっては人生で大きな意味があることです。

町田のグランドレベルを改めて見つめてみよう

田中さんが重要視しているのは「補助線のデザイン」。モノ(HARDWARE)とコト(SOFTWARE)をつなぐコミュニケーション・組織化(ORGWARE)ということを意識しながら、喫茶ランドリーを3つのウェアでつくっているそう。Via:https://kissalaundry.com/

現在、喫茶ランドリーでは、常連さんがミシンを使って楽しんだり、奥では仕事の打ち合わせをしている人がいたり、親子連れがくつろいでいたりと、まさに一つの空間の中で、いろんな人がいろんなことをしている光景が見られるようになりました。このエリアの日常も、喫茶ランドリーをきっかけに少しずつ豊かに、カラフルに、変わり始めているのかもしれません。

田中さん「私は『クリエイターでまちづくり』みたいな考え方は好きじゃない。逆に『私はただの主婦です』という言葉も信じていない。その人の中のやりたいことや、変わっている部分、でも尻込みしていたことがちょっとしたきっかけで街の中で発露して、お互いがそれを楽しめる環境が少しでもつくれたら、それが日常だったらどんなに良いかなと思って、1階づくり専門の仕事をやっているんです」

改めて新鮮な目で町田の1階(グランドレベル)を見つめてみると、あなたには何が見えるでしょうか? そこにどんな景色があったら、町田の日常はもっと楽しく豊かなものになるでしょうか? 考え始めると、とてもワクワクしてきます!

地元「町田」にこだわって事業を展開する理由

保志真人さんは2004年、株式会社キープ・ウィルダイニングを設立。町田・相模原を中心とした「武相エリア」に特化し、カフェや居酒屋、ダイニングバーなどを多数展開している。外食クォリティサービス大賞2年連続No.1を獲得。最近は宿泊施設やコワーキングスペースなど、新たな空間プロデュース事業も開始。

保志真人さんは相武台前のご出身で、10代・20代の頃は遊びと言ったら町田駅前。そんな保志さんにとって町田は、「地元」と呼ぶのがしっくりくる場所です。東林間に1店舗目の焼き鳥屋を構えてから、地元のお客さんにかわいがっていただき、商売の厳しさも楽しさも教えていただきながら、会社を成長させてきました。

だからこそ保志さんは都心部へ進出するのではなく、町田の中心地から車で30分圏内をメインフィールドと決め、「地元で商売をしながら、まちづくりに貢献する」ことを大事にしています。さまざまな種類の飲食店を町田・相模原エリアに展開しつつ、最近では地元の老舗の酒屋さんとコラボレーションし、一緒に「蔵家 SAKELABO」というお店もつくりました。

この街が豊かになるにはどうしたらいいか?が核にある想い

コワーキングオフィス BUSO AGORA/町田 https://www.incubation-office-agora.com/

保志さんはここ数年で、宿泊施設やシェアハウス、コワーキングスペースなど、地域のハブになるような新たな空間プロデュース事業も始めました。

保志さん「飲食業は1つのブランドをつくってそれを多店舗展開・全国展開するのがセオリーとされているんですが、僕はそうじゃなく、町田周辺でやっていこうと思った時、この街の人に喜んでいただけるには、街が豊かになるにはどうしたらいいのかを模索しながら進めています」

「街にないものをつくり、あるものを生かす」

それが保志さんの事業であり、まちづくりへのアプローチです。

「町田を語る言葉」を探して

保志さんは、お店のスタッフの働いている姿勢やホスピタリティを大切にして飲食業を行っている。「何のプロセスもなく外食をする人はいない、幸せを知覚できるような時間を提供したい」と言う。ZERO ONE CAFÉ/町田 https://www.zero-one-cafe.com/

保志さんは、町田・相模原エリアのことを「武相(ぶそう)」と呼び、自社施設のネーミングやブランディングにも取り入れています。それは、全国の居酒屋が集まるイベントで、地方の店主達がイキイキと自分の地元を自慢していたのに比べ、自分は町田の魅力をうまく語ることができなかった、という保志さん自身の悔しい体験が発端でした。

保志さん「町田の人なら、東京でどこに住んでるの?と聞かれて説明に窮する経験をしたことがあるんじゃないかと思います。住んでいる我々はこの街が大好きだし誇りを持っているんだけど、外部に行くと『神奈川でしょ?』『ヤンキーが』なんてネガティブな話になりがちで、いまひとつ語りにくい。僕は『エリアアイデンティティー』をしっかり持ちたいと思うようになったんです」

保志さんが考える、町田のエリアアイデンティティー

ライブラリー&ホステル 武相庵/町田 http://www.busoan.com/

都心、横浜、湘南という、色のはっきりしたエリアに囲まれて曖昧になりがちな町田に、いかに独自の色を見出していくか。保志さんは町田の歴史を調べることから始め、どんどん考えを掘り下げていきました。

その昔、武蔵国と相模国の境に位置していた町田・相模原エリアは「武相」と呼ばれていたそうです。また、「絹の道」に代表される街道がいくつも通っていて、多様な文化がもたらされる場所だった背景もあります。

保志さん:「武相、という響きが素直にかっこいいなと思いました。それから、他の地方の人によく『一つの街でそんなにたくさん店舗をやってたらいじめられるよ、普通』と言われるんですが、僕はそれは全然ない。町田の人はその辺が寛容で気にしない。だから独自でいろんなことをやる人が多い。町田は古着、音楽、オタク…いろんな文化・コンテンツがあって、何でもやっちゃう。

町田や武相の人たちのアイデンティティーは『自由』と『寛容さ』なんじゃないかと感じました」

町田はやりたいことが何でもできる街

STRI/町田 https://www.stri-kw.com/

みんながやりたいことを何でもやってしまうと、それは混沌としてかっこよく見えない危うさもあります。でも、街のみんなが「何でもやりたいことがやれる街なんだ」という軸を分かった上でやっていたんだとしたら、それはすごくかっこよくなるんじゃないか、と保志さん。

保志さん「資本主義的に頑張るなら都心に行けばいいし、もうちょっとスローに生きたいなら湘南に行く。もっとやりたいことはあるんだけど、それは別にお金のためというより自分の人生を良くしたいんだ、という人がいたら『武相に行けばいいんじゃない?』と言ってもらえるようなエリアにしたいと僕は勝手に思い描いているんです」

飲食業のノウハウを活かし、街の幸せのインフラづくりを

「GOOD LIFE BUSO」

保志さんが掲げた、株式会社キープ・ウィルダイニングの事業テーマです。最近は「武相まちづくりフォーラム」を開催したり、多様な個人がいろいろなチャレンジをする拠点としてコワーキングスペース(武相AGORA)を開設したり、県外の人が町田に来た時にこの街や武相のことをより深く知っていただくためにホステル(武相庵)をつくったりしています。

保志さん「我々は社員もいるし生活もあるので、企業として自分たちの利益も出しながら継続可能なことをやっていかなくてはいけない。その中で、事業活動そのものをまちづくりとリンクさせながら、みんなにとって良い街にしていけるようにこれからも進めていきたいと思っています」

街がもっと豊かになるためには? それを大事に考えながら、まちづくりと事業を一体にして展開する地元の企業があることは、町田にとってとても心強いことですね。そして今後はコワーキングスペースの運営など、町田で何かにチャレンジしたい人達のサポートや環境づくりもしていきたいと保志さんは考えています。

町田で何かを実現するとしたら、あなたは何をしたいでしょうか? 規模の大小に関わらず、市民一人ひとりが自分のマイプロジェクトや夢を持つこと。それこそが、新しい時代の町田をつくる原動力かもしれません。

第2部 パネルディスカッション

第2部では9つのお題の下、会場の参加者と田中さん、保志さんとでディスカッションを行いました。そのハイライトをご紹介します。

多世代シェア

参加者「最近はシェアリングエコノミーが広まっていますが、これからは気の合う人と、子どもがいてもいなくても、シングルでも、高齢者でも関係なく、ちょっと力を貸してほしいことをお互いに頼み合える仲間みたいな人達とシェアで住むのも良いんじゃないかと思っています。多世代シェアについてお2人の考えをお聞きしたい」

田中さん「喫茶ランドリーについて『どんな属性の人が来ますか? 主婦ですか?』ってよく聞かれるんですが、そうじゃなくて、おじいちゃんだろうが若い女性だろうが、考え方のフィーリングが合えばそれは同じ属性だし、同じ施設を使えるし、同じサービスを使いこなせる。既存のマーケティングのやり方は劇的に変わると思う。

これから集合住宅も、3000万円払えるから誰でも入れるってことじゃなくなるのでは? 最近『高橋大輔のファンのためのマンション』というのができたくらい。たぶん『多世代』という言葉の裏には、いろんな考え方でつながれる、ということがあるんだと思う。

コミュニティが好きという人の中には『挨拶しない人なんて認めない』みたいな人もいますが、いろんな考え方、いろんな正義があって、信じていることが違う人が同じ距離で我慢しながら暮らしなさいというのはダイバーシティじゃない。いろんな人と良い距離を設計していければ良いんじゃないかな」

保志さん「いろんな施設がその属性をはっきりと示す必要があるんでしょうね。会社を経営する上でよく言われるんですが、誰にとっても良い会社はつくれない。そうすると誰にとっても良くない会社になる。だから『僕の会社はこういう会社なんだ』って、ちゃんとはっきり言えば、その属性に沿った人が来てくれる。そしたらやはり同じ価値観の下でやっているからハッピーですよね」

郊外都市の未来の過ごし方

参加者「町田は住む人も多いが、学校やさまざまな施設があるので人が集まる。通過点ではなく立ち寄る街。そこでの過ごし方が今後どのようになっていくのかお聞きしたい」

田中さん「町田で今も昔もすごいなと思っている所は、見える道幅、建物の規模が極端には変化していないこと。ほとんどの郊外の街は駅ビル直結の巨大な建物をどっかり建てて、これで稼ぐぞ、これで人口増えるぞという、1発にかける。その1発で失われるものもあり、どこの街だか分からなくなる。

町田はだいぶチェーン店は増えたけど、まだ絶望するほどはその道を辿っていなくて、個人の力や市民力、民間の中小企業など、地元の力が何かできる予感を残している所がいちばん好きな所。その多様性が本当にこの街の魅力だということを、行政の方も含めて、町田の人が大事にしてほしい」

保志さん「街がどこも同じ顔になっちゃうよね。きれいな幕の内弁当的な街より、いろんなものが入っている街の方が面白い。

未来の町田がどうなるかは分からないですけど、僕自身はやりたいことをやっちゃう人生が良い人生だと思うから、僕はやりたいことをやっちゃえるインフラをこの街の人達と街の中にたくさんつくっていきたい」

田中さん「インフラという所、すごく大事。それは補助線と同じで、真っ白な画用紙に描けと言われても困るけど、薄く下絵が描いてあったり、1〜2本補助線が引いてあったら、その続きからなら描けますよという人が出てくる。自由であるための整え方って、相反する言い方のようだけどとても大事だと思う」

「あなたが暮らしたい街とは?」

イベントの最後は、参加者のみなさんで、改めて「あなたが暮らしたい街とは?」について意見を述べ合いました。その中では、「自分の家族や友人がいる街が、暮らしたい街になるのでは」「いろんな街を見てきたが、自分で選んだ街で自然と共に暮らせるのが良い」「いろんな人が交流できる街。空間を作るだけじゃダメ、ハブになる人が大切」「世代を超えて安心して暮らせる街」などの声が聞かれました。

まとめの時間では、田中さんからは、

「今まで住むことに集中してつくられていた郊外の街に、小さな店舗や、郊外でしか味わえない仕事と自然と人との距離の近さなど、いろんな価値がこれから再発見されていくんじゃないかと思う。それをうまくやれた郊外は生き残ると思っています。

もし今後も、物を買いに行くとか、トレンドをキャッチしに行く場所が、本当に都心であり続けると仮定するならば、郊外の街は、その買ってきた物を使いこなしたり、話し合ったりするという『過ごし方』にお金を払う対象になるんじゃないかな。別荘じゃないけど、郊外にちょっと楽しい時間を買いに来る、そこは何てことはない場所かもしれないけど、素敵に過ごせる空間があるってことはあり得るのかなと思う」

と、未来の郊外都市の新しい姿を想像させるコメントがありました。また、保志さんからは楽しい「野望」のお話が。

「僕は最後にやりたいことがもう一つあって、それはリアルダッシュ村を作るっていう構想。とはいえ本気で農業をするのは大変だから、家庭菜園くらいのレベルでいいと思っているんですが、シバヒロから10分くらいの山にビレッジをつくって、小屋をぽんぽん置いていって、裏で畑をやって、そこで採れたものを、みんながビレッジの真ん中にあるデリカテッセンに売りに来るみたいなことをしたい。野菜を売って、そのお金でそこでそのままビールを飲んだり、コーヒーを飲んだりという週末を過ごせる場所をつくりたいなって。要するに普通の人がセカンドハウスを持つみたいなこと。

今100年時代だから、老後の話が問題になっているけど、お金のいらない生活をそこにつくりたい、そういうインフラを最後につくりたいっていうことなんです」

未来の町田と、自分の夢を重ね合わせてみよう

今日のイベントでは、町田はやりたいことが何でもできる「自由」と「寛容さ」が特徴の街だという話が出ました。

また、幸せを感じられる街とは、日常の質が豊かで、一人ひとりの個性ややりたいことをお互いに認め合い、街の中で交流したり発露できる環境がある街だという話もありました。

なんだか町田は、そういう街になっていきそうな気がしませんか? 私達一人ひとりが自分の夢と町田の未来を重ね合わせながらイメージを膨らませ、これからもまちづくりを考え続けていくならば、何十年先でも町田はきっと、私達にとってどの街より輝いているはずです。

◎今回のスペシャルゲスト

田中元子

田中元子 氏
株式会社グランドレベル
代表取締役社長

1975年、茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年、大西正紀と共に、クリエイティブ・ユニットmosakiを共同設立。建築やまち、都市などの専門分野と一般の人々ととをつなぐことを探求し、建築コミュニケーター・ライターとして、主にメディアやプロジェクトづくり、イベントのコーディネートやキュレーションなどを行ってきた。

2010年より「けんちく体操」を広める建築啓蒙活動を開始。同活動は、2013年に日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2012年より、ドイツ、南アフリカなど、海外へと活動を広げる。2014年、毎号2万字インタビューを3万部印刷し、全国の建築系教育機関等へ無料配布する建築タブロイドマガジン『awesome!』を創刊。同年、都会の遊休地にキャンプ場を出現させる「アーバンキャンプ・トーキョー」を企画・運営(協同)。

2015年よりプロジェクト『パーソナル屋台が世界を変える』を開始。2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーに「人・まち・日常」をアクティブにする株式会社グランドレベルを設立。2018年市民の能動性を最大限に高める1階づくりとして「喫茶ランドリー」をオープンし、グッドデザイン特別賞グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞、リノベーションオブザイヤー無差別級部門最優秀賞を受賞。主な著書に、『建築家が建てた妻と娘のしあわせな家』(エクスナレッジ)、『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社)。

保志真人

Photo ©︎ ジェイオフィス東京

保志真人 氏
株式会社キープ・ウィルダイニング
代表取締役社長

1974年、横浜市生まれ。居酒屋チェーンで3年、ダイニングレストランで1年、レストラン副店長などを経験後、会社設立の自己資金を貯めるためにトラック運送業で1年間仕事をする。2004年10月、(株)キープ・ウィルダイニング設立。町田~相模原エリアを中心に多彩な業態を次々に開発。外食クオリティサービス大賞2年連続No.1を獲得。

町田・相模原を中心とした武相エリアでカフェや居酒屋・ダイニングなどをドミナント展開。自分たちを育ててくれた町に貢献したいという想いのもと「武相エリアにないものを創り、あるものを活かす」というテーマのものと飲食店展開や様々なイベントを企画。武相エリアをもっと面白く!をミッションに展開中。

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