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【レポート&動画】遊休不動産の活用と、その先の「つながり」へ 〜世界の事例から学ぶ、郊外都市の未来〜未来町田会議vol.4

2019.12.26

▼イベント動画を視聴できます。レポートと合わせてお楽しみください

遊休不動産の活用と、その先の「つながり」へ 〜世界の事例から学ぶ、郊外都市の未来〜

遊休不動産の活用と、その先の「つながり」へ 〜世界の事例から学ぶ、郊外都市の未来〜▼レポート詳細はこちら◎今回のスペシャルゲスト今回は、「暮らしを自分ごと化する」をテーマに、建築や遊休不動産活用の視点で街に場を解放すること、町田に必要な人との新しい繋がり、そこから街にコミュニティの作り方など、街を思うをみなさんと一緒にディスカッションをしながら考えていきたいと思います!東京の設計事務所(OpenA/公共R不動産)で様々なまちづくり再生プロジェクトに携わりながら、居住地の高円寺にある銭湯の新たな再生(銭湯ぐらし)の活動、地元の山形県でも空き家の再生に取り組む、加藤優一氏をゲストにお招きします。同氏がどのように東京と山形に関わっているか、互いの取り組みがどのようなシナジーを生み出して出しているのかを伺います。また、活動のキッカケになったという、著書「CREATIVE LOCAL/エリアリノベーション海外編」における海外の地域再生手法も交えながら、地方都市・郊外都市の可能性について掘り下げていきます。これからの社会において、どこに自分の拠点をおくか、どんなコミュニティをつくるかが問われていると思います。これからの暮らし方・働き方を、一緒に考えましょう。

YADOKARIさんの投稿 2019年12月25日水曜日

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町田シバヒロでの、これからのまちづくりを考えるイベントも、回数を重ねるごとにおなじみの景色になってきました。あなたはもう参加されましたか?
 
毎回テーマとゲストを変えて、過渡期を迎えている郊外都市 町田を市民自らの手でより豊かにしていくために、その日に集った多世代かつ多様なメンバーで芝生に座り、民間と行政の垣根も越えて語り合っています。
 
11月4日に開催されたこのイベントでは、公共空間や建物の改修を通じてさまざまな地域のエリアリノベーションを行なっている公共R不動産/Open Aに勤務しながら、個人でも空き家・遊休不動産を活用した事業を行なっている加藤優一さんをゲストにお迎えしました。30代の加藤さんが不動産活用を通じて感じている、地方の町・郊外の街の幸せな未来像とは? イベントの様子をレポートします。
 

良いまちづくりのためには、場と仕組みを一緒に考える

加藤優一(かとうゆういち)さんは、山形県出身。2011年より東北の復興事業に携わり、自治体組織と計画プロセスの研究に従事。2015年よりOpen A( https://www.open-a.co.jp/ )に参画、建築・都市の企画・設計・編集・執筆等を行う傍らで、2017年に(一社)最上のくらし舎、2018年に(株)銭湯ぐらしを設立。遊休不動産を活用した場づくりを実践している。

加藤さんは、小さい頃から建物が集まって群れになっている「街」に興味があり、大学では建築を学び、大学院では都市デザインを専攻しました。
 
ところがそこで、建築と都市は分断されてしまっているのではないかと気づいたそうです。建物を建てる人は、まちづくりのことを「絵に描いた餅」のように見ており、一方でまちづくりの人は、建築のことを「単体でしか考えていない」と見ているふしがある。国の予算制度や行政組織もほぼ縦割りになっていてあまり連携がないことに大きな違和感を感じ、間をつなぐにはどうしたらいいかと考え始めました。
 
そこで加藤さんは、計画を具体化するための、仕組みに着目します。東日本大震災後の東北大学で、被災自治体での復興を支援しながら、自治体の組織体制や計画プロセスの研究を行なっていました。
 
「場のデザイン」と「仕組みのデザイン」を一緒に考えなきゃ良いものはできない、というのが加藤さんの持論。そこに至った加藤さんの実践の事例をご紹介いただきました。
 

図書館でも公園でもない空間

公共R不動産/Open Aが手掛けた佐賀県の図書館のリニューアルのビフォー

加藤さんが所属している公共R不動産/Open Aが手掛けた、公共空間再生の事例です。広場と図書館をリニューアルする案件で、建物の裏にあった広場と図書館をつなげるために、広場に芝生を植え、図書館の手すりを人が座れるデッキに変えるという改修を行いました。改修要素は少ないのですが、実は大きな変革ポイントがあったそうです。
 
加藤さん「空間と一緒に、組織にも変化を生み出せるよう心掛けました。公園の管理者と、図書館の管理者は違うのが一般的で、お互いに連携していこうという状況が生まれにくいんですね。そこで、境界になっていた手すりを取って、図書館の利用者も、公園の利用者も使える曖昧な場所をつくりました。利用者にとっては環境が良くなり、管理者にとっては相互利用を一緒に考えるきっかけになったと思います。」

佐賀県の図書館の改修後


 
加藤さん「街や公共空間を変える時に、場所だけを見るのではなく、裏に何があるか、何を変えればここを変えられるか、を見るのが重要だと思います。

チームアップも重要で、場所に思い入れのある地域住民の方、実際に事業を行う民間事業者、行政の関係各課など、事業のスタート段階から関係する方々とチームを組んで一緒につくっていくことを心掛けています。」
 
立場の違う関係者が一堂に介し、お互いを理解し合いながら共創していくスタイル、これなくしてこれからのまちづくりや公共空間づくりはあり得ないのかもしれませんね。
 

公園へのアンチテーゼ。近隣住民がつくる「アーバンガーデン」

Via:https://www.realtokyoestate.co.jp/column.php?n=1038


 
加藤さんは、公共R不動産/Open Aの代表である馬場正尊さんらと『CREATIVE LOCAL』という本を共著しています。副題は『衰退の先にある風景』とあるように、これから人口減少が進む日本で明るい未来を描くために、先に人口減少と再生を経験している海外のまちづくり事例を紹介した本です。
 
その中で取り上げている興味深い事例を1つ、ご紹介いただきました。


 
加藤さん「ドイツのアーバンガーデンという活動があります。空き地を、住民が自由に使えるコミュニティ拠点として活用する取り組みで、600個くらいドイツにあると言われています。
アーバンガーデンの仕組みは簡単で、使われていない土地の所有者が、使いたい人にタダで貸す代わりに維持管理をしてもらう。ポイントは、そこで公益的な活動をすると、行政が土地の固定資産税を免除してくれるという制度があるんです。

日本と少し違うのは、気を抜いたらどんどん開発が進んで自分達の好きな活動ができる場所が失われてしまうのを、ちゃんと取り戻したり、自らつくろうという意識を感じました。」
 

 
加藤さん「具体例を挙げると、このプリンセスガーデンという場所は、最初はただの空き地だったのが、今は森みたいになっている。実は、このプランターの下には全部車輪がついていて、撤去してくださいと言われたら森ごと動かせる可動産なんです。空き地の所有者である行政とは単年契約なので、もし来年、契約を更新しないと言われたら別の場所に持っていける。かつ可動産なので税金もかかっていない。

ここでは住民の方も活動していますし、観光地にもなっています。面白いのがハーブティーを注文するとハサミとカップを渡されて、自分でハーブを摘んでお湯を入れて飲むという仕組み。『参加』がデザインされているのが印象的でした。」
 
加藤さんはその他にも、海外で良いまちづくりがなされている事例をいろいろ見て、共通点を発見しました。
 
加藤さん:「今まで行政主導だったまちづくりが、住民や民間が主体となって始めていて、行政はサポート側に回っている点。そして、長期計画を立ててから進めるのではなく、やりながら方向を定めたり、いろんな人を巻き込みながら進めている点が共通していました。 

とにかく自分の暮らしを自分でつくることを楽しんでいる人がどの国も多くて、これは日本でもだんだん浸透してきていると感じます。」
 

最上の実家に通いながら、身近な空き家活用


 
世界で自由に活動している人々の様子を見て、自分でもやりたいと思ってきた加藤さん。会社に勤めてはいますが、空き時間で自分のプロジェクトをやってみようということで始めたのが、山形県の会社(最上のくらし舎)と銭湯の会社(銭湯ぐらし)だそうです。

帰省するたびに、せっかくノウハウを知った空き家再生の活動を、自分でもできる範囲でやってみようと思って始めたのがきっかけでした。


 
加藤さん「毎月帰るたびに空き家活動に興味がある人に呼びかけて、まち歩きなどをやっていたら、『この空き家を使ってほしい』という人と『使いたい』という人が運良く出会うことができました。最初はお祭りの休憩所としてオープンしたところ、地域の人に継続してほしいという声をいただき、法人化して事業を行うことにしました。喫茶と間貸しスペースとして再生したんですが、初期投資はわがまち基金という助成金を利用し、地域のみなさんと手づくりで改修しました」


 
加藤さん「この施設は『のくらし』という名前で、みんなの得意分野を活かしたイベントをたくさん開催しています。カレーづくりが好きな人は『カレーのくらし』、藁細工が得意な人は『藁細工のくらし』というように、去年1年で90回ほどイベントをやりました。

建物が長屋なので、手前は飲食とイベントスペースとして利用し、奥で貸事務所にしています。そこは個人でケアマネージャーをやっている人が借りてくれて、認知症の勉強会や福祉のイベントをしてくれるので、最初は若者が集まるおしゃれカフェを想定していたんですが、今はだいぶ高齢者が多い。でも地域には合っている。元気で居場所がほしい高齢者の方は結構いて、そういう方が気軽に集まることができる場所になってきています。

この会社は2人でやっていて、僕は山形出身・東京在住、パートナーは東京出身・山形在住なんですが、パートナーが現地にいることで、活動を継続できています。」
 
少子高齢化が進んだ地方の町でも、そこに即した素敵な場を、自分の時間を工夫してつくることができるんですね。
 

高円寺の銭湯隣のアパートで身近な公共空間づくり



 
最後は、加藤さんが住んでいる、東京の高円寺にある銭湯を起点にした活動です。
 
大好きな銭湯の隣に、風呂なし・解体1年前で誰も使っていないアパートがあり、番台の人に活用して欲しい相談され、翌日引っ越した加藤さん。10部屋あるアパートに1人で住むのも淋しいので、高円寺に多いクリエイターを番台さん経由で声がけしてもらったら、ミュージシャン、イラストレーター、編集者、ディレクターなどがすぐに集まりました。それぞれの得意分野を生かして、銭湯を盛り上げるという試みを1年間住みながら行いました。そのうち、銭湯好きの人はもちろんですが、銭湯に興味がない人も応援してくれるようになり、この活動をしっかりと事業としてやっていくことになったそうです。


 
加藤さん「銭湯は会話をしなくても、みんなが心地よさを感じたり、いろいろな人が共存できる場所で、公園にも近いかもしれない。公園では居心地のいい過ごし方や、人との距離感をそれぞれが選んでいますが、銭湯も同じで、誰かと話したい時は番台でおしゃべりしているし、一人になりたい時は静かに過ごすこともできる。そういう場所って重要だなと思います」


 
加藤さん「アパートは解体されてしまったんですが、今、そこに新しい施設をつくる事業を進めていて、実際住んでいた僕達が企画・運営することになりました。
 
1階は台所のような飲食スペース、2階は居間のような、作業をしたりゴロゴロしたりできるスペース、3階は個室みたいに貸し切れるスペース。銭湯が、街に開かれた『お風呂』であるように、街に開かれたもう一つの家のような場所をつくりたいと考えています。」
 
この施設を運営する会社のメンバーは全員複業だそうです。日々の暮らしをより豊かにしたり、余白をつくるために、「空き時間」と「スキル」を持ち寄って、住んでいる地域に自分達の手で楽しい場所をつくるという「持ち寄り型のまちづくり」がポイントです。この考え方は、町田でもすぐに取り入れられそうですね。
 

場づくりは自分の暮らしから始めることが大事


 
大きな公共空間のリノベーションから、実家や住まいの近所にある空き家を活用した身近な場づくりまで実践してきた加藤さんから、まとめのお話をしていただきました。
 
加藤さん「設計事務所での仕事を通して感じるのは、場づくりを考えるときに、実際にそこを運営する人や組織をつくるまでのプロセスを大事にする必要があること。 
個人の活動から感じるのは、自分の実感のある暮らしからじゃないと良い場づくりはできないということ。日常で感じた違和感をヒントにしたり、実際にやってみて楽しいことを広げていく方が無理せずはじめられるし、周りにも伝わって広がっていくと感じます。」
 
未来の豊かなまちづくりは大袈裟なことではないし、議論するだけでも生まれません。もっとシンプルに、町田に住む私達1人1人が、自分が楽しいと思うことを自分発でとにかくやってみる。そんな小さなアクションから始まっていくのかもしれませんね。
 

第2部パネルディスカッション


 
第2部では9つのお題の下、会場の参加者と加藤さんとでディスカッションを行いました。そのハイライトをご紹介します。
 

これからの働き方


 
参加者「今30代で会社員をやっていますが、今後を考えると働き方は大きなテーマです。働き方について伺いたい」
 
加藤さん「複業と言うと収入を得ることが前提になってしまうけど、それをやることで暮らしが豊かにするという視点もありますよね。最初は小さくはじめて、いつかその状態が逆転するといいなと思っています。 いくつかのライフワークで得るお金を合計したら、本業より多いけれど、本業も辞めずに続けることもできる。一つの会社に頼る時代ではなくなっているし、『働く』と『コミュニティ』が一体になりつつある。成長が前提の社会ではないので、1つの所属に依存せず、変化を柔軟に受け入れて対応できる状態を保つというのも重要だと感じます。」
 

郊外都市の未来


 
参加者「町田は郊外都市のまさに代表という感じですが、その郊外都市の未来の暮らしについて伺いたい。町田でも人口減少は始まりつつあり、今後いかに住み続けてくれる街にしていくのか、子ども達の代も住んでもらえ
る街にしていくのか、が課題ではないかと思うので」
 
加藤さん「原風景があるのは重要です。地方都市の仕事を受けることが多いですが、原風景がないと、そこに帰ろうと思えないという話を聞きます。どこに行ってもバイパス沿いに大手チェーンの路面店があって…というあの地方都市の風景は匿名性が高すぎて、そこで生まれ育った人はそこに住んでいるアイデンティティが保ちにくいという課題があると思います。

関わっている地方都市で、使われていない歴史的な建物を改修して、小商いや自由に活動できる場所ができたんですが、高校生や学生も集まってきて、自分で何かをやろうとしている大人と関わるきっかけが生まれたんですね。

魅力的な原風景って、いわゆる素晴らしい風景だけではなく、身近な大人が楽しんでいる様子も含まれると思います。郊外でも、自分も戻ってきて活動してみたいとか、住む場所が変わっても遊びに来たいとか、そう思える場所をつくることが重要だと思います。そういう意味では、今まさに町田シバヒロで繰り広げられているこの風景も、原風景になりうるのではないでしょうか。
 
これまで街は消費するための場所だったのが、今は『自分で生産できる街』が求められていて生き残っていくと思います。消費する人が集まる街は、どこか使い古されていく感じがある。元気のある地方都市や田舎に行くと、何かしらの生産が行われているんです。逆に、インバウンドなどの一過性の流行に乗って消費される街もよく見ます。郊外が、住宅という消費活動によって終わってしまう街にならないかどうかは、ちょうど今が変わり目のような気がします」
 

消費の街から、生産する街へ。自分も何かつくってみよう


 
「買い物するなら町田」「団地やマンションが多く、利便性の高いベッドタウン」。従来の町田の特徴から、私達は未来に向けて「生産する街」をキーワードに進化していくと良いのかもしれません。
 
町田シバヒロのような、境目のない公共空間に多世代の多様な人が集まり、みんなで街を自分事化しながら、ちょっとした何かをつくり出してみる。行政はそういう市民の動きを応援する。そんなアクションを繰り返していった先に、活気のある明るい町田の未来がありそうです。
 
ご実家や近所など身近な所から場をつくり出すことを実践してきた加藤さんに学び、私達も自分の日常生活の続きで、何か1つ、楽しい小さなアクションを起こしてみませんか?

◎今回のスペシャルゲスト

加藤 優一(かとう・ゆういち)
OpenA+公共R不動産/(株)銭湯ぐらし代表取締役/(一社)最上のくらし舎代表理事/

<プロフィール>1987年山形県生まれ。東北大学博士課程単位取得退学。2011年より東北の復興事業に携わり、自治体組織と計画プロセスの研究に従事。2015年よりOpenAに参画、建築・都市の企画・設計・編集・執筆等を行う。2017年(一社)最上のくらし舎設立、2018年(株)銭湯ぐらし設立。近作に『佐賀城公園トータルディレクション』・『万場町 のくらし』、近著に『CREATIVE LOCAL/エリアリノベーション海外編』・『公共R不動産のプロジェクトスタディ/公民連携のしくみとデザイン』(共著、学芸出版社)。

参考インタビュー記事:https://finders.me/articles.php?id=172

<銭湯ぐらし>
2017年から、東京都杉並区高円寺にある銭湯「小杉湯」に隣接する風呂なしアパートを「銭湯つきアパート」として活用。多様なクリエイターと共に暮らしながら、「銭湯のある暮らし」の魅力を発信。2018年10月に法人化し、アパート解体跡地に、銭湯つき複合施設「小杉湯となり」を計画。2020年3月より運営予定。

銭湯ぐらし:http://sentogurashi.com/

<最上のくらし舎>
山形県の新庄・最上地域を拠点に、空き家の再生や地域の魅力発信などを行う。深い雪の中で培った「自分たちの手で豊かな暮らしをつくる文化」を地域内外に伝えていくことを目指す。築100年の町家を活用し、喫茶+貸しスペース「万場町 のくらし」を運営する。

最上のくらし舎:http://mogaminokurashi.com/
万場町のくらし:http://nokurasi.site/

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