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【レポート】町田一箱古本市「本とビールと家族愛」〜芝生ピクニック“ごろん”〜

2019.10.04

町田の中心市街地にある広大な芝生広場「町田シバヒロ」。この貴重な場所を、市民の日常的な交流拠点として育てるべく、町田の住民や、町田を訪れる人達みんなで使い方・楽しみ方を模索しています。

その使い方アイデアの一つとして、市民から発案されたのが「芝生でゴロゴロする」というもの。確かに、フカフカの競技用芝の上で青空を眺めながらゴロゴロするのは気持ち良さそうですし、都市部の家庭ではそんなに広い芝生の庭が確保できるわけでもない中で、これはけっこう革命的なアイデアかもしれません。

そんな経緯があっての2019年8月3日の日中、快晴の青空の下で、初めての「町田一箱古本市」というイベントを開催しました。好きな本を、ビールを片手に、芝生の上でゴロゴロしながら読むなんて、最高の休日の過ごし方です。そのイベントの様子をご報告します!

一箱に好きな本だけ詰め込んで、誰でも店主になれる1日

「一箱古本市」とは、地域の人々が中心となって、みかん箱サイズの一箱(ダンボールや木箱、トランクなど)に、自分が読み古した本や、人におすすめしたい本などをセレクトして詰め込み、フリーマーケットのように販売するイベントです。2005年に東京の谷中・根津・千駄木で「不忍ブックストリート」が開催されたのをきっかけに、現在はさまざまな地域に広まっています。

この日は出店者の誰もが、一箱の中に本と想いを詰め込み、店名を付け、本屋の店主となっていろんな人との出会いや交流を楽しむことができます。各店主の独断と偏愛に満ちた本のラインナップも面白く、訪れるお客さんにとっても、趣味の合う店主に出会えた時の「あなたも?!」の喜びには、格別のものがあることでしょう。

この日は町田市内をはじめ、都内や県外からも、16店の出店者が集まりました。それぞれのお店について、店主のおすすめ本と共にご紹介します!

町田の高齢者施設内でもブックカフェを運営「ひかり堂」

麦わら帽子がチャーミングな小野寺ひかりさんのお店「ひかり堂」。古本市への出店は2012年頃から。大学生の時に、地元である栃木県宇都宮市の一箱古本市に出たのがきっかけで、東京でも活動し始めたそうです。

そんな小野寺さんの今日のおすすめ本は絵本作家 安野光雅さん作・絵「手品師の帽子」(筑摩書房)。安野さんの本は以前から好きだったという小野寺さん。古本屋で偶然見つけたこの本は初めてだったので、手に取ったそうです。

「手品師の帽子をめぐってヘンテコなストーリーが展開します。一生本棚に入れておいて、家族何代にも渡って楽しみたい本です」

小野寺さんは、町田市内の高齢者施設内にある、地域の人々の交流を目的とした図書館「まちライブラリー」の運営も行なっています。

小野寺さんは、町田をどのように感じているのでしょうか?

「町田は大きい街で、ユニークな人もたくさんいます。チェーン店もありますが、個人店の個性も面白い。東京なのに、郊外の街みたいな感じで、何かをやっていると寄って来てくれるし、適度な距離感も保ってくれます。他人のフリして、他人じゃない。そんな感じが町田の心地良さです」

旦那さんの本好きが嵩じて

続いて、町田市内から出店しているこちらの女性のおすすめ本は、つげ義春さんの「無能の人」(日本文芸社)。

「外箱に入って、高そうでしょ? 主人がつげさんの本が大好きで、他にも持っているので、この本は売りに出そうかと。本当は今日は、主人と子どもと3人で出店する予定だったのですが、主人が仕事になってしまって、子どもと2人で来ました。主人は古本好きで、部屋中が本とCDだらけなんです。わざわざ中野まで買いに行ったりして」

町田には結婚してからお住まいだそう。町田シバヒロでいろいろなイベントが開催されているのをインターネットでチェックしており、このイベントを見つけて応募したそうです。

「町田は都心へ行くにも交通の便も良いし、いろんな街が近いのが良いですね。それでいて、薬師池公園の方にはカブトムシもいるし、自然があって過ごしやすいです」

本屋に生まれ育った女性の、本屋修行

こちらは「書肆ねっこ堂(しょしねっこどう)」という店名の、佐藤さんのお店。昔から本好きだという佐藤さんは、なんとご実家が本屋さん。今は閉店してしまったそうですが、ご自身もいずれ本屋さんを開きたいとのこと。

「本当は書店で修行をしたいのですが、今はまだ軸足が主婦なので、できることを始めようと1年ほど前からこうした古本市への出店を始めました」

なんだか夢のあるお話です!

そんな佐藤さんが選んだ今日のおすすめ本は、田島征三さん作「ぼくのこえがきこえますか」(童心社)という絵本。日本・中国・韓国の絵本作家が平和を願って子ども達に贈る絵本シリーズの一冊です。このイベントが開催されたのは8月。終戦記念日を前に、町田は親子でいらっしゃる方も多いだろうと考えて選んだそうです。

「町田は、街の未来のためのいろいろな取り組みを始めている感じが伝わってきます。それが良いですね」

そこに古本市がある限り。レインボーブックス

さて、こちらの男性は、古本市の分野では知る人ぞ知る有名人「レインボーブックス」さんです。もう10年近く古本市への出店を続けていて、北は青森、西は名古屋まで活動は広範囲。多い時は100冊ほどの本をカートに積んで、毎週のようにイベント出店をしているそうです。今回は、古本市仲間のツイッターでこのイベントを見つけて、参加してくださいました。

「僕が古本屋通いを始めたのは、小学校五年生の時。本を読んでいると、素晴らしい物語の世界を所有したくなってしまう。古本屋は本が安く買えるので、僕にはとても良かったんです」

町田ははじめてなので好きな本を持って来た、と言うレインボーブックスさんの今日のおすすめ本は、谷口ジローさん作の「千年の翼、百年の夢」(小学館)の大型本。

「僕の大好きな作家さん。主人公はルーブル美術館の守り人で、『サモトラケのニケ』の化身が案内をしてくれるんですが、その美術品の作られた時代に飛ばしてくれるという贅沢な設定。全編オールカラーで絵が素晴らしいんです。僕はもう1冊持っているので」

やはり一箱古本市は、店主のみなさんの個性がとても面白いですね。

人生の旅に携える一冊を

こちらは若手の男子2人組による「バックパックブックス」。人生という旅に1冊携えて行きたくなる、精神的なバックパックになるような本を集めて紹介する、というコンセプトだそうです。

向かって左側の山野さんのおすすめ本は、ノンフィクション作家である沢木耕太郎さんが、藤圭子さんへのインタビューを紡いだ「流星ひとつ」(新潮社)。一時は封印されていましたが、藤圭子さんが亡くなったのを機に、沢木さんがやはり世に出すことを決意した本です。

「2人の会話だけで綴られていくのですが、絶頂期の美しい藤圭子さんの葛藤がインタビューの中で浮かび上がって来て、だんだんヒリヒリしてくる。スリリングな本です」

右側の宮里さんは、今年、出版社に入社。ご実家は町田近郊で、中学・高校時代は町田でよく遊んでいたそう。

そんな宮里さんのおすすめ本は、トラベル作家 駒沢敏器さん作「アメリカのパイを買って帰ろう」(日本経済新聞出版社)です。アメリカ軍が沖縄を占領していた時代の人々の日常を描いたロードムービーのようなノンフィクションで、宮里さんはその第9章が特に好きだそうです。

「当時日本では許されなかったアメリカの音楽をかけ続けたラジオ局の日本人と、フェンスの向こうのアメリカ人の物語なんです。駒沢さんはもともと、旅の雑誌『Coyote』で編集者もしていた人で、世界のいろんなところへ行って書くことを生業にしていた大好きな作家」

「バックパックブックス」の名前の背景にある宮里さんの想いが伝わってきます。

本で街をつなげる「きんじょのほんだな」

さて、続いては「きんじょのほんだな」の店名で出店している町田在住の金城さん。結婚してからいくつかの街を転々とし、町田に落ち着いたそうです。昨年から、町田市内のカフェや工務店の中に本棚を置かせてもらう取り組みも行なっています。

そんな金城さんは、家族愛をテーマにした本を2冊、選んでくれました。1冊目は、窪美澄さん作「水やりはいつも深夜だけど」(角川書店)。もう一冊は、古内一絵さん作「マカン・マラン −二十三時の夜食カフェ−」(中央公論新社)。

「どちらの本も、家族はいろいろあって良いんだな、と思わせてくれます。日常の積み重ねが『家族』なんですよね。こうじゃなきゃいけない、はない。老後のことを考えると、自分の子どもに面倒を見てもらうより、友達と住んだ方が現実的なんじゃないかと思えます。1人の年金より、2人の年金の方が暮らしやすいし、一緒に住むってことが家族なんじゃないかなって」

そんな未来的な家族観も話してくださった金城さん。町田に、この古本市のような交流の場所がもっと増えるといいなと期待しています。

将来はブックカフェを開きたくて

「大安門堂」の西田さんは、お仕事の都合で、なんと8月から町田に住み始めたばかり。小学校の頃から好きだったという本をおすすめしてくださいました。大海赫(おおうみあかし)さん作「ビビを見た!」(ブッキング)という児童文学です。

「大海さんは、限られた時期にしか活動していなかった幻の童話作家。このお話は最近舞台化されて、横浜で上演されたんですよ」

西田さんは、将来ブックカフェを開きたいので、その資金を貯めるためにも古本市への出店をしているそうです。ブックカフェが楽しみですね!

ゲストハウスを運営する店主が選ぶ旅の本

このイベントをFacebookで見つけて、はじめて古本市に出店してくれた「アジア書房」の一条さん。選んでくれたおすすめ本は、アジアを旅しながら多くの写真を残した写真家 日比野宏さんの「マガンダ」「バハラナ」(凱風社)というフィリピンの本です。

「私は生後1年で町田に来て、今は鶴川でゲストハウスをやっています。自分も昔はバックパッカーをしていたんですよね。この本からは、フィリピンの家族や親族の在り方、お金がなくても笑顔で暮らしていける彼らのことが、手に取るように伝わってきます」

東京から長野へ移住して

長野県の伊那市から参加してくれた「積読屋(つんどくや)」さんです。長年東京にお住まいでしたが、お父さんの出身地である長野県伊那市に移住しました。おすすめ本は、平岩弓枝さんと伊藤昌輝さん著「茶の間の人間学」(ケイブンシャ文庫)。「どなたが読んでも共感できる夫婦の本」だそうです。

「積読屋」さんに、一箱古本市の醍醐味を伺いました。

「お客さんは、良いなと思うと何冊もまとめて買ってくれることがあります。自分が選んだ本が誰かに選ばれるのは、認められた気がして嬉しいものですね」

伊那市から町田までは200kmほどで、「わりと近い」感覚とのこと。

「大きくて活気のある町田に来てみたかったんです。街なかにこんな広場があるのは珍しいですね」

自分の本棚から循環させる

町田在住の小林さんの店名は「わさび座」。しばらく町田を離れて都心部に住んでいましたが、子どもが生まれた街なので、また町田で暮らしたいと思い、戻って来たそうです。そんな小林さんの今日のおすすめ本は、小幡有樹子著「自然素材でつくるファミリーのデイリーケア」(ブロンズ新社)です。

「薬に頼らないで家族同士でケアし合おうよ、という本です。他にも、赤ちゃんからのシュタイナー教育の本など、私自身が今まで読んできた自分の本棚の中から、今は必要がなくなった本を循環させている感じ」

町田市の金森の辺りにお住まいだという小林さん。公園があって、夕陽がきれいで、小鳥がいて、そんな恵まれた環境が「また町田に住みたい」という思いをかき立てたようです。

町田には潜在的に、本を通して人と話したい人がいる

町田で生まれ育ち、大学生の時に新潟に出たものの、また町田に戻ってきたという「へのぶっくす」さん。古本市に出るのは今日がはじめて。人づてにこのイベントがあることを聞いて、出店の申し込みをしました。今日のおすすめ本は、貴志祐介さん作「新世界より」(講談社)。

「最近、久しぶりに寝る間を惜しんで読んだ本です。SF小説で、1000年後の行き過ぎた管理社会の話。小学校で、社会的に邪魔になりそうな子が消されて行き、しかも周囲の人の記憶も改竄されて、いなくなっているけど思い出せないという少し怖さもあるお話です」

生まれ育った町田に戻ってきて、今どんなことを感じているのでしょうか?

「学生の頃にいた場所はすごい田舎だったんですが、町田は適度に都会でやはり住みやすい。昔から町田文学館も好きだったんです。自由に入れて好きに本が読めるので。町田には古本市に出店したい、参加したいという人が潜在的にまだまだたくさんいるんじゃないでしょうか。本を通して人と話ししたい人が、きっといると思います」

ドラえもんで第六感を養う?

この日のイベント運営サポートスタッフでもある、くまがいけんすけさんも「くまがい書店」として出店。敬愛する藤子F不二雄さんの名作ドラえもんをデータで紐解いた、ドラドラ漫研団著「ドラえもん最強考察」(普遊舎)をおすすめしてくれました。

「ドラえもんでは、『人間とは、愛とは、家族とは』といった大きなテーマが描かれていると僕は思ってます。この最強考察の本は、とても興味深い内容には違いないのですが、結局僕が思ったのは、ドラえもんは考察するものではなく感じるもの、人の第六感に訴えかける作品だということ。本をおすすめしておいて相応しくないコメントかもしれませんが(笑)。今の風潮だと『自分の好きを仕事に』なんてよく言われますが、自分の好きが何なのかを発見する第六感が養われていないんじゃないかと思うんです」

出店者同士のつながりも生まれていく

町田一箱古本市の会場では、出店者同士がお互いのお店の本のラインナップを見に行ったり、日頃の活動を伝え合ったり、連絡先を交換する姿も見られました。やはり本が大好きな人達なので、本を介した途端、あっという間に仲良くなってしまうのでしょうね。

みんながくつろぎ本でつながる、町田シバヒロの一箱古本市

町田シバヒロに張られたテントの下では、芝生に寝転んで購入した本を読むお客さんの姿も見受けられました。風に吹かれてそのままウトウトしてもいいし、また別の本を物色しに行ってもいい。最高の環境です。

今回、はじめて開催した一箱古本市でしたが、単なる古本の売買の場であるということを超えて、人と人との楽しい交流の場となることが分かりました。しかも、本を介することで、自分の好きなことや趣味はもちろん、価値観や人生観など、ちょっと深い話もしやすいのが魅力なのではないでしょうか。

今後も町田一箱古本市は、ぜひ続けて行きたいイベントです。一箱に本と想いを詰め込んだら、誰でも店主。次回はさらに多くの店主さんのご参加をお待ちしております。

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