INTERVIEW

若い人たちが自分の夢を活かせる商店街へ

2021.03.26

町田市中央地区商業振興対策協議会 幹事長、原町田四丁目商店会 会長 高橋宏明さん
3代続けて町田に生まれ育ち、中心市街地で家業である酒店の仕事に従事しながら、原町田四丁目商店会をはじめとする8つの商店会による協働イベントの運営に携わるなど、長年に渡りまちの賑わいづくりの中心に身を置いてきた。2020年5月に町田市中央地区商業振興対策協議会の幹事長に就任。2008年5月から会長を務める原町田四丁目商店会も含めた中心市街地の商店街の活性化に尽力している。

東京都の南端にある、人口約43万人の都市「町田」。新宿から小田急線で約30分、横浜と八王子をつなぐJR横浜線も乗り入れ、横浜駅からも約30分と交通利便性は抜群で、1970年頃から団地が開発されるに伴い、人口も増え続けて来ました。

かつては八王子で生産された生糸を横浜港へと運ぶ街道「絹の道」を中心に商業が栄え、やがてJRの駅が小田急線の駅の近くへ移転したのを機に、町田駅前には百貨店や大型商業施設が次々と開業。ピーク時には商圏人口230万人とも言われるほど、「買い物するなら町田へ」と近隣の市町からも多くの人が集まりました。

その町田が今、再び変化の時を迎えています。

日本全体が成熟期を迎える中、次の時代・世代に選ばれるまちにしていくために、町田市でも多くの人々が、積極的にまちのアップデートに取り組んでいます。今回の特集インタビューでは、原町田四丁目商店会で3代続く酒店を営み、長年、中心市街地の商店街の活性化と商店会コミュニティの運営を行ってきた高橋宏明さんにお話を伺いました。町田市中央地区商業振興対策協議会の幹事長として、原町田四丁目商店会の会長として、また、この地域で商いを営む事業主として、高橋さんは今、どんな課題を見つめているのでしょうか。

商業のまち 町田を支え続けてきた商店会

―高橋さんは町田のまちづくりに関わるさまざまな役職をされていらっしゃいますが、まず、商店会の会長としての日頃のお仕事について教えていただけますか?

高橋さん原町田四丁目商店会は現在、会員が52店ほどいて、全体の店舗数の約7割が加入してくださっています。日頃の商店会長としての仕事は、まちが潤うように、商店会員さんが潤うように、主に商店街への集客や賑わいづくりを行うこと。具体的には1年のうち何度かイベントを開催しています。例えば秋の大道芸のイベントや、お正月には餅つきなど。それから、9月に行われる町田天満宮の例大祭では、商店会からも人や運営費用の面で協力しています。町田市役所からの依頼で、商店街に告知物を掲示したり、まち並みを整えるためのプロジェクトに関わったりという、商店街の窓口としての役割もありますね。

―町田市中央地区振興協議会(略称:中対協)の幹事長というのは、どういう役割なんですか?

高橋さんこの協議会は、駅前の大型店と中心市街地の8つの商店会が、一緒になってこのエリアを良くしていこうという組織です。町田は東急ツインズさんや小田急百貨店さん、丸井さんなどの大型店も、それぞれの地区の商店会に加入してくださっていて、商店会と仲が良いんですよ。これは全国的にも珍しいらしいです。中対協の始まりは、JR町田駅が移動して小田急線の駅と近くなった時代に、それまで個人商店ばかりだった町田に、大型店が一気に入ってきたことがきっかけです。当時の商店会は危機感を覚えたんですね。それで大型店とも共存しながら繁栄していこうということで、この組織がつくられたんです。

そこから、大型店も商店会も一緒になって中心市街地の賑わいをつくるために、「フェスタまちだ」というイベントが始まりました。年に1回、過去34回開催し続けています(※昨年は新型コロナウィルスの影響で中止)。沖縄からエイサーの団体をお招きして道路で踊ってもらうというのも、フェスタまちだが始めた頃は画期的なイベントで、市内はもちろん市外からもたくさんの人が見に来てくれました。イベントというと一過性のイメージが強いですが、何十年も継続して行っていくことで、それはまちの一つの風景や文化になっていくと思います。現在はこうした大規模なイベントを開催するにあたって、商店会のメンバーが高齢化してきているため、運営体制が年々厳しくなってきています。これから先、どのように続けていくのかは課題ですね。

なぜ商店街の後継者が不足するのか?

―高橋さんは生まれも育ちも町田で、ご実家の酒店を継いでいらっしゃいますが、町田の商店街を現場でずっと見てきて、昔と今ではどんな変化があるのでしょうか?

高橋さん私は今59歳で、生まれたのは原町田四丁目の「ぽっぽ町田」の向かいです。今は自社ビルになっていますが、生まれた頃は1階が酒屋で、2階が住居という、典型的なまちの商店の造り。いずれ家業を継ぐんだろうなと思っていたので、社会に出るとき、他へ勤めには行かずに父と一緒に酒屋の仕事をし始めました。

その頃に見ていた風景は、今とはかなり違っています。原町田四丁目商店会は、ほぼ全部が個人商店。加入率も9割を超えていて、各お店の店主がメンバーでした。道を歩けばみんな顔見知りで、忘年会や新年会には30人も40人も集まる。まるでクラスメイトみたいでしたよ。インターネットで物を買うなんてことがない時代で、みんな買い物かごを下げて、魚屋や八百屋などあちこちのお店でちょこちょこ買い回る。商店会のメンバー同士も、あそこの料理屋はうまいとか、あの店の品物は良いとか、お互いに買い物をして支え合う、そんな商店街でした。

―今の若い世代には、そういう商店街の雰囲気やコミュニケーションに憧れている人もたくさんいます。平成生まれの人は、昭和の時代の古き良きまちを体験したことがないですから。

高橋さん今は、商店街だったエリアの一部は住宅街やマンションになっているところもあるし、原町田四丁目や三丁目などの中心部でも、商店の店主が高齢化して、自分で商いはしないでテナント事業に切り替える人も多くなりました。テナントが悪いわけではないんですよ。でも店主自らが商売をしたり、商店会に参加していた時代とは、やはり熱量やコミュニケーションの距離感が違いますよね。

昔は商店会長といえばステイタスがあり、みんながなりたがった。今は各商店会の会長さんも70代、80代とかなり高齢化しているのですが、下の世代にバトンタッチしようにも後継者がいないという問題があります。昔は「息子が家業を継いでバリバリやってるから、俺は暇だし商店会長をやるんだ」というのがよくある形でしたが、今は親子2代でやっているお店の方が珍しい。息子が「継ぐよ」と言ってくれたとしても、「俺はお前の給料を出せないから他所へ働きに行ってくれ」というのが現実です。

想いのある個人が参入しやすい環境づくりを

―学生さんなどに「どんなまちになってほしい?」と聞くと、「コミュニケーションがあるまち」という答えが多いのですが、お母さんたちが買い物かごを持って回っていた時代の商店街の魅力って何だったんでしょうか?

高橋さんやっぱり「会話」です。その時代にはまず「安く買おう」という感覚がなかった。どこのお店に行っても同じ値段で売っていたわけですから、じゃあ、どうやってお客さんを獲得するのかと言ったら、コミュニケーションや配達をしてくれるというところですよね。そういう風景が見られなくなってしまった寂しさは、私も感じています。

―これから先の未来に、そういう風景が再び生まれてくるといいなと思うのですが、そのためにはどんなことが必要でしょうか?

高橋さんいちばん良いのは、「私はこれをやってみたい!」という想いを持った個人の若い人が商店街に入って来てくれることですよね。今はチェーン店が増えてしまったけれど、そういう人の新しい発想が入ると、もっと面白いまちになるんじゃないかと思います。でも町田の中心市街地は家賃がそんなに安くないから、個人ではなかなか入れないという事情もあります。最近は行政が家賃の補助をするなどの取り組みもあるようですが、そういうことをもっと推進していって、想いのある個人が参入しやすい環境にしていく必要がありますよね。

よく「今の若い奴には夢がない」と言われますが、私は若い人にも夢はあると思います。ただ、その夢を活用する場がないんじゃないかと思うんです。

市民と一緒につくる商店街

―好きだった個人商店がなくなってしまったり、まちの風景の一部になっているような催しがなくなってしまったりしたら、悲しむ人はたくさんいると思います。「自分にも何かできることはあったんじゃないか?」と。町田は中心市街地に個人商店がいまだに残っていて、ある意味ごちゃごちゃしているところが魅力だと言う人も数多くいます。これからの商店街の未来を考えたときに、課題解決の方向として、どのようなことが考えられますか?

高橋さん確かに、手伝ってくれる人がいたら続くのかもしれないですよね。市民のみなさんと一緒に盛り上げるという方向性があってもいいのかもしれません。大道芸のイベントを桜美林大学の学生さんたちが手伝ってくれたことがあったんだけど、私たちも楽しくお手伝いしてもらえるような工夫をして、一緒に何かに取り組んでいく中で、市民の方々と知り合えたり、お話ができたりしたら、そこからまた新しいアイデアや展開があるかもしれないですよね。

駅から商店街までなかなか人が流れて来にくいという課題もあるので、その導線もスマートフォンなどと連動して強化したいですし、店主が高齢化しているお店ではホームページもなかったり、商店会全体として情報発信が弱い部分もあるので、そういうところを若い世代が手伝ってくれるとありがたいですよね。

「商業のまち 町田」の商店会のこと、知っているようで知らなかった人も多いのではないでしょうか。私たちは日々の暮らしの中できっと、まちの商店の活力やコミュニケーションから、商品やサービスだけではない、人間味のあるたくさんのギフトをもらっています。そんな温かみのある町田であり続けるために、商店会と生活者が一緒になって、世代間をつなぎながら「楽しいまち」を共創していく。そんな商店街のあり方も、町田の未来の一つの可能性と言えるかもしれません。

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