INTERVIEW

原町田大通りから始まる、歩いて楽しいまちづくり

2021.03.31

東京都の南端にある、人口約43万人の都市「町田」。新宿から小田急線で約30分、横浜と八王子をつなぐJR横浜線も乗り入れ、横浜駅からも約30分と交通利便性は抜群で、1970年頃から団地が開発されるに伴い、人口も増え続けて来ました。

かつては八王子で生産された生糸を横浜港へと運ぶ街道「絹の道」を中心に商業が栄え、やがてJRの駅が小田急線の駅の近くへ移転したのを機に、町田駅前には百貨店や大型商業施設が次々と開業。ピーク時には商圏人口230万人とも言われるほど、「買い物するなら町田へ」と近隣の市町からも多くの人が集まりました。

その町田が今、再び変化の時を迎えています。

日本全体が成熟期を迎える中、次の時代・世代に選ばれるまちにしていくために、町田市でも多くの人々が、積極的にまちのアップデートに取り組んでいます。多摩都市モノレールの町田への延伸もいよいよ実現に近づいている中で、今回の特集インタビューでは、2021年1月に町田駅周辺の「都市再生整備計画」を公表し、「歩いて楽しいまち」を目指して原町田大通りの活用に取り組んでいる、町田市役所の4名の職員さんにお話を伺いました。


写真左から、経済観光部産業政策課 佐藤拓史さん、和賀貴子さん、都市づくり部都市政策課多摩都市モノレール推進室 山下卓馬さん、姫島友子さん

原町田大通りを、みんなが面白いことを持ち込める「実験区」へ

―改めてお伺いしますが、市役所のみなさんは原町田大通りをどんなふうにしていきたいと考えていらっしゃるんですか?

佐藤さん原町田大通りは現在、ほぼ人が通過するだけの通りになってしまっているのですが、この大通りの空間で人が思い思いに過ごしたり、この通りに来ると楽しい、ここにいることが心地いいと感じていただける空間にしていきたいと考えています。

姫島さんモノレールが町田に延伸してくる時期の将来像を、いろんなセクターと一緒に考える取り組みをこれまで行ってきました。原町田大通りは、道路としては機能していますが、「楽しい通り」になっているとは言い難いですし、空間的にも余白があります。そこをポジティブに捉えて、町田をもっと良いまちにしていくための動きをここから生み出したい。いろんな人々が自分の得意なことや面白いことを持ち込める「実験区」のような場所にできないかと考えています。一方で、芹ヶ谷公園の再整備計画も進んでいるので、芹ヶ谷公園へも楽しく歩いていけるような通りになるといいですよね。

「歩いて楽しい通り」を目指した取り組み

―原町田大通りを「歩いて楽しい通り」にしたいという理由は何でしょう?

佐藤さん駅前やその周辺の商店街は現在も賑やかですが、原町田大通りという大きな道路によってエリアが分断されてしまっている状況があります。その大通りを「人中心」の賑わい空間にできれば、商店街同士のつながりも今以上に強まりますし、実際の距離より心理的に遠く感じがちな芹ヶ谷公園への導線も強化できます。

和賀さん原町田大通りは今、車がメインの通りになっているので、それを渡って反対側へ行くのが遠いなと思ってしまうんです。大通り付近に立ち寄れるスポットがたくさんあれば、歩きたくなるのではないかと思います。

山下さん昔から町田にいる人にはよく知られていることなんですが、この大通りがある場所には以前、噴水広場があったんですよ。そこに現在の道路ができたんです。原町田大通りはそもそも、多摩都市モノレールの延伸を期待してつくられたのですが、この道路ができたことでまちが分断されてしまった、と感じている方々もいらっしゃると思います。じゃあこのままでいいの? というところをみんなで考えていきたいですよね。「歩いて楽しい原町田大通り」を目指すのは、時代にも合ってきているのではないかと思います。

―そんな「歩いて楽しい原町田大通り」を目指して、具体的にはどのような取り組みをされているんですか?

佐藤さん2016年に始まった「町田市中心市街地まちづくり計画」の10のプロジェクトのうち、プロジェクト6「原町田大通り憩いと賑わい空間を創造するプロジェクト」に基づいて、原町田大通りの歩道拡幅等を計画する「都市再生整備計画」をつくりました。現状4車線ある車道を、将来的には片側1車線ずつの2車線にして、歩道を拡幅したいと考えています。そうした場合の交通への影響を調査するために、2021年1月に、原町田大通りの車道を一車線規制する実験を行いました。合わせて、規制した車線内に運送トラックなどのための荷捌きスペースをつくり、原町田大通りと交差する原町田中央通りに完全に車を侵入させないようにしました。

姫島さん調査の結果、原町田大通りの交通にはほぼ影響が出なかったのと、原町田中央通りについては、市民の方々から、まちの中が歩行者にとって気持ちよく歩けるオープンスペースになったことに対して良い評価をいただけたんです。これはとてもうれしくて、私たちのモチベーションアップにもなりましたよね。

佐藤さんもちろん荷捌きの利便性に関しては賛否両論があります。しかし、車線規制しても車の交通にはさほど影響はありませんでした。これを踏まえて、2021年度内に、将来的に歩道を拡幅しようと考えている場所に1ヶ月間程度、人が滞留できる空間をつくり、その場所がどのように活用されていくかを検証する実験を行います。この先も何度か同様の取り組みを重ねながら、2030年までに原町田大通りが歩いて楽しい通りになるよう、一つずつステップを踏んでいく予定です。

和賀さん「人が楽しく過ごせる空間を生み出す」という部分は、市役所が考えるとどうしても硬くなりがち。そこは町田まちづくり公社さんや市民のみなさんと一緒に取り組んでいけたら面白いなと思っています。柔軟な発想を持ち込んでいただいて、それを実現するにはどうしたらいいかとか、必要な手続きなど、そういうところをサポートするのが私たち市役所の仕事だと思っています。

―「歩いて楽しい原町田大通り」を実現していくにあたって、どんな課題がありますか?

山下さん「この場所で何かやりたい!」という人たちを増やしていかないといけませんよね。そういう人たちが想いや活動を形にしやすい環境を整えていく必要があります。

和賀さん原町田大通りは、やはり「道路」なので「交通」という機能が大前提になっている場所。そこに人が入れる空間や機会をどのようにつくり出すかが難しいポイントです。いろいろな人の理解を得ていかねばなりません。関係者に一つ一つ丁寧に説明しながら、実験的につくり出される楽しい空間を体感していただくなど段階的に進めていく中で、共感していただいたり、応援していただいたりということを積み重ねて、少しずつまちの機運を盛り上げて行けたらいいですね。

佐藤さん共感してくださる市民の方々が、たくさん集まる場所にしたいです。2021年度内に行う原町田大通りの活用実験が、市民のみなさんの「自分も何かやってみたい!」というアクションのきっかけになればいいなと思っています。

多摩都市モノレールは町田をどう変える?

―多摩都市モノレールが実際に町田へ延伸してくると、まちへのインパクトは大きいのではないかと思いますが、どんな変化が起こると予想されますか?

山下さん交通機関として新たにモノレールが入ってくると、人の流れは変化すると思います。これを契機に、ただ乗り継ぐために町田を利用するのではなく、まちの中へ人が出ていきやすいきっかけをつくりたいです。

姫島さん今までよりも多摩方面など外から町田へ来る人が増えるので、その時に、駅が乗り換えのためだけの空間になってしまうのではなく、「乗り換えのために町田に来たのに、面白そうだからまちに寄っちゃった」とか「みんなが乗り換えに都合がいいから、町田に集合しよう」みたいに、もっと町田を楽しんで利用してくれる人が増えたらいいなと思います。町田は昔から商業都市ですが、今後はもっと「多機能化」して、働く人が増えたり、自分の活動を展開する人が増えたり、いろんなことができるまちにしていけたらと。モノレール延伸をきっかけに、まちの役割自体を変えていけないか、駅だけでなくまち全体の変化につなげていけないかと考えています。モノレールの事業は期間も長くなってしまうと思うので、みんなで一緒にワクワクしながら完成を待てるような過程が大事だと思います。

山下さんモノレールに乗って下をのぞいた時に、まちが何だかワイワイ楽しそうで、思わず駅で降りてそこへ行ってみたくなる、そんなまちづくりや原町田大通りの活用をしていきたいですね。

「町田をもっと楽しいまちに」。想いが一つだから垣根がなくなる

―最後に素朴な質問ですが、産業政策課と多摩都市モノレール推進室は市役所の中でも部署が違うのに、みなさんとても和気あいあいとして仲が良いのはなぜなんですか?

和賀さんそうですね、今日のこの4名は特に、原町田大通りの活用というテーマのもとで目指すところが同じだからかもしれません。原町田大通りをなんとかしてもっと良い形で活用したいという想いが強いので、協力しながらやっていきたいと4名とも思っているからですね。

目指すのは「歩いて楽しい原町田大通り」、「歩いて楽しい町田」。その根底には、町田に昔から息づいている「まちなかの温かいコミュニケーション」をこの先も大事にしたいという、町田に関わる人々に共通した想いがあるような気がします。その想いを中心に、世代や所属、立場を超えてみんながつながる時、これまでの町田の良さをしっかりと引き継ぎながら、さらに多様性のある新たなまちへと進化していけるのではないでしょうか。町田に生きる人々と一緒にまちを良くしたいと願う、行政の方々の熱い気持ちが伝わるインタビューでした。

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