INTERVIEW

学校とも家庭とも違う、子どもの生きる力を育む居場所

2024.02.16

子どもセンターまあち

0歳から18歳までの子どもが集い、遊べる施設です。元気に走り回れるプレイスペース、読書や勉強をするコーナー、工作や調理ができる部屋、バンドやダンスの練習ができるスタジオ、乳幼児が保護者の方とゆっくり過ごせる乳幼児室など。中心市街地に近いという立地条件から、乳幼児とその保護者、小学生から中高生も集える居場所として、幅広い機能を持っています。

東京都の南端にある、人口約43万人の都市「町田」。新宿から小田急線で約30分、横浜と八王子をつなぐJR横浜線も乗り入れ、横浜駅からも約30分と交通利便性は抜群で、1970年頃から団地が開発されるに伴い、人口も増え続けて来ました。

かつては八王子で生産された生糸を横浜港へと運ぶ街道「絹の道」を中心に商業が栄え、やがてJRの駅が小田急線の駅の近くへ移転したのを機に、町田駅前には百貨店や大型商業施設が次々と開業。ピーク時には商圏人口230万人とも言われるほど、「買い物するなら町田へ」と近隣の市町村からも多くの人が集っています。

そういった、商業が盛んなまちとしてのイメージもある町田ですが、一方で、近年は子育て世代の流入人口が増加傾向にあり、子育てがしやすい・暮らしやすいまちとしても根強い人気を誇っています。

今回の特集インタビューでは、町田の中心市街地にて、児童館という公共施設を通じて、子どもたちの発達の拠点や地域との繋がりを作る「子どもセンターまあち」館長の栗原尚子さんと、小野香鈴さんにお話を伺いました。まちにおける子どもセンターの役割や、子どもたちと行っている活動について語っていただきました。

 

子どもの居場所だから、子どもの意見で作り上げる

ーまず「子どもセンター」という名称について、聞き馴染みのない方もいらっしゃるかと思います。この施設はどのような場所なのでしょうか?

栗原さん 「児童館」というと、想像がしやすいかと思います。子どもセンターの対象は0歳〜18歳の子どもとその保護者で、子どもたちの遊びの拠点・成長発達の拠点・子育て支援の拠点・地域の拠点としての役割を担っています。

子どもセンターによっても異なりますが、まあちの館内には楽器やダンスの練習ができるスタジオ、プレイスぺース、キッチンや工作ができるお部屋など、色々な機能が用意されています。特に民間で運営されているカフェが併設されている点も、児童館では珍しいかもしれません。

ー町田市には子どもセンターが5箇所ありますが、「子どもセンターまあち」の歴史や特徴を教えてください。

栗原さん 町田市には、子どもセンターが市内5地域に1施設ずつあります。1999年に南地区の「子どもセンターばあん」から始まり、鶴川や堺、忠生の3地区にも子どもセンターが設立され2016年に、町田地区に「子どもセンターまあち」が誕生しました。

新型コロナが流行する前は、年間来館者が10万人を超えるほどの多くの利用者が訪れていました。現在は、少しずつ以前に近づいています。小田急線とJR線の2路線が通っていて、

駅からも徒歩10分ほどでアクセスがよく、市外だけでなく都外からの来館も多いことが、利用者が多い理由の一つです。また、親子で気軽に立ち寄れるような機能や設備があることも需要が高い理由であるように感じます。

ーカフェの併設など、設備の充実も利用のしやすさに繋がっているだろうなと思いました。立ち上げの際、どのようなことを重視されましたか?

栗原さん 他の子どもセンターもそうですが、整備段階から子どもの声を聞き、大人の目線だけではなくハード面からソフト面に関しても子どもの意見が反映されています。

そのため、まあちを立ち上げる時にも子どもたちの意見を反映させる「子ども委員会」を設けて、開館前から一緒に作っていきました。

例えば、館内にカフェがあるのも子どもたちからの提案です。「コンビニが欲しい」という意見から試行錯誤して、運営先を探していった結果『AROUNDTABLE』というカフェが入ってくださることになりました。

また、児童館では珍しく、特定の場所以外は館内どこでも飲食ができるようになっています。それも子ども委員会の中での提案で実現したことです。

大人は喫茶店やカフェで飲食をしながらずっとおしゃべりをしているのに、子どもは「食べ終わってから遊びなさい」と言われることが多いと思います。なぜ大人が許されて、自分たちは駄目なのかという疑問が子どもたちの中にあったのです。

だからこそ、自分たちの居場所である子どもセンターは、飲食ができる場所にして欲しいということが、子どもたちの希望でした。「ゴミも自分たちで責任をもって管理し、持ってきたものは持ち帰る」というルールを自分たちで設けて、館内の飲食が実現しました。

ー子ども委員会という取り組みはすごく面白いですね。普段も活動されているのですか?

栗原さん  子ども委員会は月2回の活動日を中心に、運営について話しあったり、まあちがもっと楽しくなるようなイベントの企画などを行ってくれています。

また、子どもセンターには、子どもセンターの運営について検討する運営委員会があります。近隣学校の校長先生や町内会の方など、地域の大人20名ほどに集まっていただき、大人と子どもが一緒に子どもセンターの運営について話し合いをする運営委員会を開催しています。その会議の中で、子ども委員会の高校生が司会進行やまあちの状況を話してくれています。

自分たちの考えや運営の方法を子どもたちが話し、それに対して地域の大人の方たちが一緒に考えるということは、すごく有意義な会議だなと思っています。

 

大人のルールを押し付けず、自分で考える力を育む

ー子どもたちがのびのびと、自由に過ごせるためには、場所や人が作り出す空気の心地よさが大切だと思います。日々の運営でどのようなことを意識していますか?

まあちは、禁止事項がほとんど館内に掲示されていません。子どもたちに、頭ごなしにこれはダメ!あれはダメ!と言っても、聞き入れてくれません。理由をちゃんと説明するからこそ、理解し受け入れることができるのだと思います。

「何やっているの!それはダメ!」で終わってしまうと理由がわからず、同じことを繰り返してしまいます。ここではできるだけ、自分でどうしたらいいかを考えられるような促し方をします。

例えば、走っている子がいた時には「走っちゃダメだよ、やめなさい」で終わってしまうのではなく「周りを見てごらん、ちっちゃい子がいるよね。そこで思いっきり走ったらどうなると思う?」と問いかけをします。

そうすると、「あぶないし、ぶつかると思う。」など回答してくれるので、そこからどうすればいいのかを一緒に考えます。最終的には「走らない、歩いて鬼ごっこする」と子どもなりに考えを伝えてくれます。納得のいく対話ができれば、自分で考えて行動にも移せます。まずは話を聞き、そこから意見を交換しながら答えを見つけることが大事だと思います。

ー素晴らしいですね。幅広い年代で場所を共有していること自体も、多角的な成長発達に繋がっているように感じました。

子どもセンターでは0〜18歳まで“切れ目のない支援”をしているからこそ、子どもたちの中に生まれる意識や感情があると思います。

微笑ましいエピソードとして、館内の自由に使えるピアノで、中高生がよく練習をしています。それまで曲調の激しい曲を弾いていたのに、小さい子が近くに寄ってくるとトトロの曲に変えてくれるなんてことがあります。

まだ幼い小学生の子たちが、乳幼児の子たちを気にかけている場面に出会うこともあります。同じ空間でお互いに影響し合い、時には他者の気持ちを汲んで、色々な感情を豊かに育んでくれたら良いと思います。

ー意見を反映できる子ども委員会、様々な世代との関わり合い。この子どもセンターという場所が、子どもたちにとってリアルな社会になっているように感じました。

栗原さん 子どもが自分でやりたいことに挑戦する場所や機会が少ないことから、今の子どもたちは、やりたいことを聞かれたときに、自分で思いつかないという状況があります。

色々な経験を重ねながら、失敗したり怒られたりすることで、良いこと悪いことがわかるようになると思います。

そのため、子どもたちが考え、考えたことが反映される場所や機会が子どもセンターの中だけでなく、社会の中にもっと広がると良いと思います。

 

家庭でも学校でもない居場所だからできることを

ーコロナ禍の子どもや保護者の方への影響はいかがでしたか?

多くの施設が休館をするなかで、できるだけ開館し居場所の提供を目指していました。

乳幼児のお母さんたちの来館も多かった分、出かけられる場所がなくなると、子育てに行き詰まってしまいます。時間が短くても、制限があったとしても、誰かがいる場所に行けることに意義があると考えて運営をしていました。ちょっと息抜きをしてもらえたらいいなと。それは子どもたちも同じです。制限が解除された今は、子どもたちがやりたいことに挑戦する動きも活発になっています。

例えば、コロナ禍で文化祭もなく、修学旅行も行けなかったという高校生の子は、まあちでお泊まり会をしてみたいと言ってくれています。

また、子どもたちから、市のサポートを受けながら、若者がやりたいことを実現する事業「まちだ若者大作戦」に参加したいと発案があり、今計画しているところです。

コロナ禍で味わえなかった経験を実現させてみたい、そう感じている子たちが多いので、一緒に考えてサポートしていきたいですね。

ー子どもたちの挑戦したい気持ちをどのように引き出していますか?

小野さん 何気ない会話でつぶやいたことを拾って、一緒に話してみることで挑戦の後押しができればと思っています。

先日、まあちの音楽スタジオをよく利用している軽音楽同好会に所属している高校1年生の子が、自分たちの発表の場所がほしい、ライブを実施してみたいと言っていました。

一緒に話していくうちに「それなら、ここでライブをやってみようよ」という話になり、現在企画を進めています。イベントの内容や、どうやって人を集めるか、小学生にも見に来てほしいからポスターにはふりがなを振ろうなど、自分たちで考えて進めています。

栗原さん 小さいことから経験を重ね、たくさんの成功体験を味わい、それを糧に成長することが子どもたちの自信に繋がる、そんな場所でありたいです。

自ら考えて実行したことで自信が得られると、その経験を次の人たちに伝えていこうという連鎖も生まれると思います。

ライブのこともまあちに通っていた大学生に話をしたら、スケジュールの組み方や、機材のセッティングの仕方を高校生たちに教えてくれて、そういう受け取り合いができるのも、子どもセンターのいいところだと思います。

 

子ども視点で考えることが、より良い未来を築いてゆく

ー最後に、子どもセンターまあちの今後についてお聞かせください。

小野さん 子育て中は外と繋がる機会が減ってしまうと思うのですが、ここに来れば職員もいますし、知っているお母さんがいたり、新しい繋がりができたり、誰かしらに会って話すことができます。

まあちは子どもたちだけでなく、保護者や、地域の方々など、色々な人が繋がる場所です。

まあちママの会MAMAMOという、まあちを利用している乳幼児の保護者が集まって、親子で楽しめる企画や新聞づくり、子育てについておしゃべりをする会もあります。お父さん同士のネットワークも広がっていくといいなと思っています。

栗原さん 自分が成長過程で味わったことが、子世代へと受け継がれていくものだと思います。今を生きる子どもたちが、これからどのような経験を重ねていくかが大切なことです。

その可能性を広げるためにも、まあちでの活動も施設の中だけでなく、もっと地域と繋げていきたいと思います。

まあちは、利用者の保護者や地域の関係者の大人が出入りする場所でもあり、様々な方と交わるきっかけがあります。地域のお祭りやイベントに子どもたちが出店することで、地域との関わりが増え、地域を知るきっかけにもなります。

子どもたちのやりたいことを起点に、子ども・大人・地域が繋がることにより、まち全体が活き活きとし、まちへの愛着へとつながると思います。

最後に、現在町田市では「子どもにやさしいまちづくり」を進めています。「まちだ若者大作戦」はこの取り組みの一環として実施し、子どもセンターがサポートしています。是非、みなさんにも注目していただけたら嬉しいです。

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