PEOPLE

街角の本棚がつくる人とまちの繋がり 「きんじょの本棚®」きんじょうみゆきさん

2022.03.30

【店名】きんじょの本棚®
【ジャンル】本
【ご担当者】きんじょうみゆきさん
【所在地】町田市内を中心に、全国各地。

町田の市内、あちこちで見かける小さな本棚。これはブックコーディネーターのきんじょうみゆきさんが2018年に始めた「きんじょの本棚®」という「まちの本棚」です。

「きんじょの本棚®」は本棚が設置してある場所なら、どこで借りて、どこで返してもOK。本棚は「きんじょの本棚®」を面白がることができる人なら誰でも設置できます。

そして、この「きんじょの本棚®」を通じて、本棚を開設する人、借りる人で交流のが生まれています。最近では、町田市内だけではなく、さまざまな地域にも広がっているのだとか。

どうして「きんじょの本棚®」を始めたのか、その歩みと魅力について、きんじょうさんにお話を伺いました。

きっかけは「人がどんな本を読んでいるのか知りたい」という想い

間もなく、101軒に到達するという「きんじょの本棚®」。始まりはどのようなものだったのでしょうか。

「名刺の裏にも、『本が好き 本を読むのが好き 本を読む人が好き』と書いてあるくらい、人に『何を読んでるの?』と質問するのが大好きなんです。他の人が読んでる本をどうやったら知ることができるかな? どうやったら読めるかな? とずっと思っていました。ある時、それぞれが自分の家の本棚を置いてくれたら借りに行けるのに、とふと思ったんです」

本好きからすると、まさに最高の発想です。ただ、他人の本棚に借りに行く……というのは現実的なものではありません。いきなり、カフェを開いて本棚を置くのも難しいもの。

「そんな話をあるコーヒー店でしていたら、アイデアに賛同してくれて。それが『きんじょの本棚』1号店のonso coffeeさんなんです。

でも、一軒だけだと、どこで借りてどこで返してもいい、というのができないんですよね」

 そこで、onso coffeeさんのほか、ベネ・ヴィベレさん、美容室 PIN UPさんにお願いをし、そこにきんじょの本棚本店を加えて、4店舗でスタートしました。

コロナ禍で広がった「きんじょの本棚®」

しかし、すぐに「きんじょの本棚®」の活動が広まったというわけではありません。活動に批判的な声もありました。

「本が好きな人って、本を誰かに勧めたいのもあるけれど、本を大事にしたい、という思いも強いんですよね。外に置いておくことで、本が傷んだり、なくなったりするのがやっぱり嫌なんです。本が好きなのにどうしてそんなことができるの、と言われたこともありました。

でも、本にしてみれば、私しか読まないというよりも、みんなに読んでもらったほうが多分喜ぶな、と思って、覚悟を決めたんです」

なかなか広がりを見せなかった「きんじょの本棚®」。最初はきんじょうさんご自身がそれぞれのお店に行くたびにローテーションしていたと言います。

その空気が変わったのは、コロナ禍による最初の緊急事態宣言のときでした。

「飲食店が慣れない中、テイクアウトを始めて苦戦してたんですよね。お料理を待ってる間にみんなスマホを見ているから、『ここに本があったら、誰かの助けになるかな』と思って。結局その本を返す、って行動が発生するからまたお店をリピートすることに繋がるんです。それってお店にもメリットになるじゃないですか。そうしたら、それ面白いよねって、一気に広がったんです。

あのときは、本屋さんも、図書館もお休みになったんですよね。家にこもってなきゃいけないのに、みんな何するんだろう、と思っていたのもありました」

最初は、きんじょうさんが1軒ずつ、置いてみませんか、と声をかけていたのだそうですが、緊急事態宣言以降は自然と活動が広まっていったといます。

「広げたいとか、知ってほしいとかそういう下心なくやっていたのが多分、自然で良かったのかな、といまは思います」 

本が好きになったのは高校時代

お話を聞いていると、小さいころから本がお好きだったのかと思いきや、実はそういうわけでもなかったと言います。本を読み始めたのは高校を卒業したころだったそう。最初に読んだのは『レベッカ』と『嵐が丘』でした。

「何かの話で、その作品の話題が出たときに、知らなくって。これから社会に出るのに、本の話をされて知らないって恥ずかしいかもしれない、と思ったんです。それで話題になった本を読んで、その中に出てきた本をまた読んで……としりとり式に読んでいきました」

本をたくさん読んでいくうちに、目の前の人がどんな本を読んできて、どんな本から影響を受けているのかがわかるようになった気がする、ときんじょうさん。

「読んだ人によってそれぞれの感想があるので、読む人が違えば違う作品になるんですよね。それを聞くのが楽しいんです。だから、私が知らない本に出会うために、「きんじょの本棚」を始めたんです。みんなのためにやってるわけじゃなくて、自己満足で始めたから結局楽しくて続けられているのかもしれません」

そんなきんじょうさんが「きんじょの本棚®」の活動をする上で大事にしているのは、「楽しむこと」、「無理をしないこと」、「続けること」の3つだと言います。

「楽しみながらやっているから、興味を持ってもらえるんですよね。それで広がった、という経緯があるので楽しむことは絶対大事にして欲しくって。

本棚も出したりしまったりするお家もあるんですよ。ちょっと面倒くさいな、というときは、ぜひ休んで、って言っています。去年の梅雨は雨で1ヶ月ぐらいみんな休んでいましたし、仕事が忙しい人は、月に2回ぐらいしか出してなくて、幻の本棚って言われるんですよね」

無理せず、自分のスタイルで。そんな自由さがあるから、魅了される人も多いのかも。 

本が人と、店と、まちをつなぐ

また、「きんじょの本棚®」があることによって、お店にとっても素敵なことが起こっています。

「本棚は、その人の個性がわかるんですよね。お客さんも初めて入るお店ってちょっとハードルが高いと思うんです。でも、『ここのお店は、こんな本を読む人がいるのか』と思うと、お店自体の情報に+αされて、入るきっかけになるんですよね」

本の背表紙に貼られている「きんじょの本棚®」のシールは、お店の交流や宣伝のきっかけにも。

「たとえば、『PIN UP』で、『onso coffee』のシールが貼ってある本を手に取ったら、自然と『onso coffee』ってどこにあるのかな、って思うじゃないですか。そうやって、本棚をやっている人同士がうまく混ざっていくんですね。onso coffeeに行ったことがない人にも宣伝効果になってるんじゃないかな、と思います」

そして、お店に興味がなくても、本棚に興味があればそのお店に出入りするようにもなります。その人の流れができていれば、商店街なども活性化していくのでは、ときんじょうさんは言います。

きんじょの本棚がある街・町田

 最後に、今後の町田が、どんな街になってほしいかをお伺いしてみました。

「自分ができることをやる、という自立した人が増えていったらいいですよね。

『きんじょの本棚®』は本さえあれば年齢問わず誰でもどこでも始められます。『もう年をとっちゃったから。でも本棚置期待な』と思ったことがきっかけで、みんなと交流するためにわざわざスマホを買って、若い人に習って、Facebookを活用できるようになってる人もいました。そういう人のきっかけになれたのが嬉しいですよね。

本は、普段はつながりがない人たち同士も、年齢、性別、職業などを超えて繋いでくれます。読んでる本の種類も違うけど、親でもない、先生でもない人が本を勧めてくれるってすごいな、と。そして、その本だけで分かり合えるんですよね」

たった1冊の本が人とまちを繋いでくれる。

「きんじょの本棚®」の活動は、今や町田市内だけにとどまらず、町田近郊、そしてなんと沖縄でも始まっているそうです。

街角の小さな本棚が、人とまちをあたたかく繋いでくれる。その無理のない、やわらかな景色が、町田から広がろうとしています。

COLLABORATION PARTNER