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お父さんたちのつながりと子どもたちの未来のために「お父さんネットワーク」薄井隆さん、北村直己さん

2023.03.27

さまざまな場所ではためく「お父さんネットワーク」ののぼり。これは、町田第一小学校のお父さんたちが行っている活動の一環で「家庭、学校、習い事以外の地域」で子どもたちの居場所を作れたら、という想いから学校内外でさまざまなイベントや交流を行っています。

子どもたちのため、地域とのつながり、そしてお父さんたち自身のために。「お父さんネットワーク」の薄井さんと北村さんにお話を伺いました。

お父さんと子どもが遊ぶ場所作り

「お父さんネットワーク」の発足は2008年。町田第一小学校のPTA活動を母体として、「休日に家でゴロゴロしているお父さんが子どもと遊ぶ場所をつくりたい」という思いでスタート。その後、2014年に薄井さんが代表に就任、2015年に北村さんが加入して今の体制となったそうです。

北村さん「長男が入学して、夏の防災宿泊体験というのがあったんですけど、終わったあとに飲み会に誘われたことがきっかけで参加しました」

当時、お子さんが小学校に通っているいわゆる現役のお父さんは薄井さんと北村さんの2人。現在の活動の屋台骨を支えているおふたりですが、「お父さんネットワーク」の中で果たしている役割は少し異なるようです。

北村さん「私はどちらかと言うと、外に出ていって面白いイベントを仕入れてして、お父さんが地域に入る機会作りですね。薄井さんは、子どもたちの笑顔のため、というところでしっかりと舵を取ってくれています」

薄井さん「いくら活動を広げても、扱うのは子どもメインですから。私は私なりに、お父さんネットワークは子どもたちとの関わりの部分を担当しています」

北村さんはお父さんが地域に入るきっかけ作りを、薄井さんは子どもたちのためにを、モットーにお父さんと子どもが関わり合えるイベントを、おふたりが役割を分担していることで、お父さんネットワークは多角的な広がり方をしていっています。

多種多様なお父さんネットワークの活動

お父さんネットワークで行われているイベントはさまざま。

実は、「全国おやじサミット」というものがあり、コロナ禍前は他の「おやじの会」のいろんなイベントに訪れ、参考にしていたと言います。

例えば、新聞紙をつなげた中に大型扇風機で風を入れて作る新聞紙ドーム、新聞紙ちゃんばら、ペットボトルロケット、焼き芋イベントetc.学校の中では運動会での見まわりボランティアなども行っていました。また、2020年からプログラミングの授業が始まるということで、ほかのおやじの会を訪れてプログラミングを学ぶにはどうするのが良いのか聞きに行ってみたり。

さらに、小学校内では、入学式の記念撮影をお手伝いする「入学式撮影サポート」も行われました。

薄井さん「幼稚園のお友だちがたまたまいてくれたりすれば、お父さんも一緒に写真に映ることもできるけど、初めて来た小学校の入学式では厳しいですよね」

北村さん「私は保育園から一緒に上がる人がひとりしかいなかったんです。だから仲良しグループで撮っているのは、入りづらい人もいるだろうな、と思って。最近は入学式のときに桜が散っていることが多いので撮影用の桜の看板も作ったりしました」

しかし、コロナ禍で活動に転機が訪れます。

北村さん「どちらかというとそれまでは『イベント屋さん』のようなものだったんです。でも、コロナ禍になって学内のイベントができなくなってしまった。でも、外だったら良いよ、と校長先生に言っていただいたんです。それで、シバヒロでおこなう『#ゆるゆるお父さん遠足』というような活動もおこなうようになりました。

子どもが遊んでくれるのは小学校3年生ぐらいまで。それなら未就学のうちから関わることが大事ですし、いろんなお父さんと関わることで社会性も養われていくんじゃないかな、と思ったんです。

イベントだとどうしても、子どものことをお客さん扱いしてしまいますが、大人になったときに地域や行政に対してどういうサービスをしてくれるの? という姿勢になるのは嫌だな、と思ったんです。してもらうばかりじゃなくて、主体性を持って自分たちでもできることはあるんだよ、と伝えたいということもありました」

それによって、お父さんネットワークで横のつながりができることになり、次のステップに進むことができたと言います。

お父さんのための居場所でもある

お父さんネットワークを通じて子どもが体験したことは将来の生活に繋がり、結果的に街を育てることにもつながります。

薄井さん「地道な活動を続けることで、子どもたちが大きくなったときに『こういう活動があったよね』と頭の片隅にでも残っていれば、って思うんです。自分の子どもが大きくなったときに『お父さんたちが関わっていた場所があったな』と思い出してもらえれば」

北村さん「20年、30年先の世代がそういうふうに地域の活動に自然と参加できればいいですよね」

しかし、小学校で実際にお父さんネットワークに関わっているのは数パーセントです。ビラを配ってみても、なかなか反応はないと言います。

北村さん「1年間だけPTA会長をやっていて思ったんですけど、お父さん、男の人というのは結構カッコつけなんですよね。学校のイベントも、自分から進んで手伝う、参加する、というよりは、『さあどうぞ』『手伝ってください』とはっきり言うことで参加もしやすくなるんですよね。面倒くさいですよね、男って(笑)」

実際に、自治会などに入っているのは女性が多いイメージではないでしょうか。実際、30代から50代の男性が自治会に入るかと言ったら2つ無理がある、と北村さんは言います。

北村さん「昔と違い、定年が延びているので、僕らの世代だといつまで働くんだ、という話。延びた定年後に自治会に入りたいと思っても、受け入れる方もむずかしいと思います。一方で、共働き率が高くなって、お父さんの家事育児参加も当たり前というようなときでも、地域と関われるかと言ったら、カッコつけなので関われない。

実際に、『#ゆるゆるお父さん遠足』に来るのも、お母さんが多いですしね。そういうときはお母さんに声をかけるんです。お父さんが子どもを連れて『#ゆるゆるお父さん遠足』参加したらお母さんの自由時間ができますよ、って。妻から『子どもを連れて行ってらっしゃい』って言われたら、お父さんも行かざるをえないというわけです」

まさに、お父さん目線での誘い方と言えるかもしれません。

でも、その影には北村さんたちの切実な願いもあります。

北村さん「家庭と職場の往復だけだと、悩みを言うところもないんですよね。地域の、ある意味他人だから話せることって結構あるんですよね。だから、居場所を作るために入ってみるのもいいんじゃない? という言い方をしています」

薄井さん「できればもっと積極的に地域とは言わなくても、子ども全体にかかわってもらいたいと思いますけどね。子どもが3年生になるまでの間だとしたら、本当に短いんですから」

北村さん「地域に関しても、自分ごととしてとらえるとすごくおもしろいのにな、と思います。それに気づいてないのはもったないな、と」

何年もお父さんネットワークの活動をやられている薄井さんと北村さん。そのモチベーションはどこから生まれるのでしょうか。

薄井さん「やってみて初めて分かることってたくさんあるんですよね。話してみないと分からないことも。第一歩を踏み出してくれたことで、これだけ楽しいことが待ってるんだよ、って感じてもらえるのが自分のモチベーションですね」

北村さん「お父さんネットワークって、長くゆるゆると確実なつながりが良いと思うんです。来週のイベントに行かなくちゃ、ではなくて行けるときに行けたらいいんですよ、っていう。あとは、子どもが小学校を卒業するまでじゃなくて、ここのエリアに住んでいればずっと仲間だからね、というスタンスでやっています。

それに、会わないと分からないことも多いじゃないですか。実際に顔が見える関係があれば、大変なことも話し合えますし」

もっともっと、親と子が住みやすい街に

町田を離れていた時期もあるという薄井さんと北村さん。改めて町田に戻ってきたおふたりが感じる町田はどんな街なんでしょうか。

北村さん「私の感覚だと程よい田舎なのかな。全部が全部高層マンションじゃないから、顔が見える程よさと、神奈川県町田市って言われても本気で怒るわけでもないその寛容さ、ですかね」

薄井さん「逆に私は、今は少し都会すぎるかな、というのは思います。昔はもうちょっとちっちゃくて仲見世商店街みたいなのがいっぱいあって」

一方で、これからの町田に期待することは?

北村さん「行政に対しては、ハブとなる動きをしてほしいという気持ちはありますね。いい活動をしている人たちがいるのはわかっているけど、その人たちをつなげる力が弱い。もう箱ものは十分なので、そういうソフトの面を充実させてほしいです」

さらに、薄井さんの「子どもたちを育てやすい環境だって言われているけど、やっぱりもうちょっとがんばってほしいですね」という言葉に北村さんも大きく頷きます。

北村さん「23区内と多摩地区との格差っていろいろあるんですよ。今は解決されたけど、小中学校の空調問題もそうだし、中学校で給食がある、ないの地域差がありますよね」

薄井さん「あと、この町田一小辺りで言うと、近くにある図書館がなくなるだとか。本当に子どもたちのことを考えているのかな、って思いますね。中央図書館に借りに行けばいいと言う考えもあるけど、気軽に本を借りに行ける場所があることが大切なんですよ」

「細かなことをいうとまだまだ全然」と薄井さん、北村さんも「語り尽くせない」と言います。

お父さん目線で見た町田はまだまだ良い街になれるヒントがたくさん隠されているに違いありません。

 

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