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人情味の残る町田でこれからも商売を / エスポアなかのや 坂田幸則さん

2019.09.03

【店名】エスポアなかのや
【ジャンル】酒屋
【ご担当者】坂田幸則さん
【所在地】原町田6丁目

町田最古参の酒屋さん

JR町田駅から芹ヶ谷公園方面へ北東に伸びる原町田大通り沿いに、酒屋「エスポアなかのや」さんはあります。大正2年の創業当時から酒屋として始まり、以来100年以上、町田で最も古い酒屋さんとして商売を続けてきました。現社長で3代目、幸則さんの代で4代目となります。

屋号の「なかのや」は、初代がもともと新潟県東頚城郡(ひがしくびきぐん)字中野から、多摩の酒蔵へ杜氏(酒造りの職人)として出て来て、町田で酒店を開いた時に命名しました。ルーツと歴史が込められた店名です。

街の変化と共に歩んできた

なかのやは、現在の原町田中央通りで営業していました。1998(平成10)年に原町田大通りが新設整備される際に、店舗を移転。2000年に現在のビルが完成し、その1階で開店して今に至ります。街の変遷に連動して、町田の中でも場所や店舗を何度か変えながら商いを続けて来られました。

お客さんの顔ぶれは、町田駅前にひしめく飲食店の方々はもちろんのこと、昔からの個人の常連客や外国人も多く、遠い街からわざわざ買いに来る人もいます。

その秘密は、やはり圧巻の品揃え。店内1歩足を踏み入れると、床から天井まで、世界各国の多種多様な色とりどりのお酒が並んでいる光景に圧倒されます。今までに手がけたお酒は約3000種にもおよび、店頭に陳列してあるお酒だけでも常時1500種ほどあるそうです。

どこでも買える時代だからこそ、専門店として

4代目の幸則さんと奥さんにお話を伺いました。

「2006年に酒類販売免許が完全に自由化されたことで、コンビニエンスストアやドラッグストアなど、どこでもお酒を買える時代になりました。そんな中で、やはり酒屋としては、差別化が必要です。

私達はお酒の専門店として、希少な銘柄を含めた何百種類ものお酒を取り揃えています。そして、ネット販売よりも対面販売にこだわりを持っています。お酒は嗜好品ですから、万人にウケる1本というのは無いんですね。プレゼントにもよく選ばれる品物ですから、その人が求めているものをお聞きして選ぶスタイルにしています。そんな私達のお店を気に入って、リピートしてくださったり、わざわざ電車を乗り継いで遠くから来てくださるお客様が本当にありがたいです」

物語のあるお酒を

なかのやでは、ビールや日本酒、焼酎などの日本のお酒はもちろんですが、ワインやウィスキー、リキュールといった洋酒の品揃えの豊富さが大きな魅力です。

「ウィスキーがいちばん良く売れます。NHKの朝ドラ『マッサン』でブームになる以前から、日本のウィスキーは海外で賞を獲っていて、海外のお客さんが買いに来ていました。今は日本のウィスキーが品薄で手に入りにくくなっています。

ワインは、もちろん高価なものも用意がありますが、もっと気軽に毎日の食卓で楽しめるワインもたくさんあります。安くて自分にあったワインを見つけてもらうのが良いですね。自分にとって美味しいワインというのは、皆違いますから。

私達のおすすめのワインは、フランスの小さな蔵元から仕入れているものです。ほとんど手作りしているんですよ。以前に南ロワール地方から10日間かけて、ずっとシャトーを回って、作り手の方に会ってきました。こんなに真面目に作っていらっしゃるんだと、感心しましたよ。畑仕事も自分でやっていて、手なんかゴツゴツしてて、ブドウから作っている。そういうこともお客さんにお話ししながら、一緒にお酒を選んであげたいですね」

町田で変わらず続いてほしいのは「人情味」

町田生まれ町田育ちの奥さんが、この街の昔のこと、これからに期待することをお話ししてくださいました。

「昭和30年代頃には、商店街がすごく活気があって、パレードが行われていたくらいなんです。個人商店がもっとたくさんあって、子どもの頃、祖父の家に行くのに商店街を通って行くと、途中でいろんな人に『おやつあるよ』とか、なんだかんだ声を掛けられて、祖父の家になかなか辿り着けない、みたいなことがしょっちゅう(笑)。

でも今は皆、年を取って、テナント貸ししている所も多くなり、商店街も淋しくなりました。昔は商店街の人同士、普段よく顔を合わせてランチに行ったりしていたんです。今は個人商店が減って行ってるし、お店の入れ替わりも早い。物販が少なくなって、美容院やドラッグストアが多くなりました。知っている人も少なくなって、町田は若い人達の街になっちゃったみたい。

町田は適度に都会で、適度に田舎。これからも、つながりのある変わらない街であってほしいと思います。町内会や商店街が淋しくなったと言っても、何か集まりがあると皆出て来るんです。お祭りや冠婚葬祭の時の団結力はすごいんですよ。そういう人情的な部分が、町田の良さだと思います。これからもお客様を大事にして、町田で商売を続けていきたいです」

駅の移動、市役所の建設と移転、道路の拡張、世代交代、時代の変化…。なかのやが町田という一つの街で、創業以来「酒屋」という一つの商売を100年以上続けて来られたのは、移り変わる街に合わせて自らを変化・進化させ、お客様にちゃんと愛されてきたからに違いありません。こうした個人店が町田の街の根幹を形づくってきたのです。「商業の街 町田」の商人のたくましさと、人情味あふれる温かさを同時に感じたインタビューでした。

【お店情報】
エスポアなかのや
所在地:町田市原町田6-20-10
営業時間:10:00〜21:00
定休日:水
URL:https://www.nakanoya-honten.com/

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