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【レポート&動画】ピクニックから学ぶ自分らしい公共空間の使い方。芝生広場の可能性を再発見しよう! Ride ON シバヒロ

2021.03.30

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「ピクニカビリティ(Picnic ability)」という言葉をご存知ですか?

これは「ピクニック」と「アビリティ(能力)」からなる言葉で、その場所や人の持つ「ピクニックを楽しむことができる力量」を示しています。このユニークな視点を教えてくれたのは、今回のゲストである伊藤香織さん。東京理科大学理工学部建築学科の教授として都市研究を行う一方で、「東京ピクニッククラブ」という団体を仲間と共同主宰し、国内外の公共空間でピクニックを楽しむ実験的活動を行っています。野外での息抜きが貴重である今、ピクニックは家族や友達と一緒に気軽に楽しめる注目の活動かもしれません。

ピクニックと言えば芝生、芝生と言えば「町田シバヒロ」です! 今回のオンラインイベントでは、都市の中にあるさまざまな公共空間でピクニックを実践してきた伊藤さんから事例とポイントを教わりながら、町田シバヒロの使い方を、ピクニックをヒントに参加者みんなで考えました。海外からの参加者もいらっしゃった注目のイベントの様子をレポートします。

公共空間で過ごす時間を上手に楽しむ人々


伊藤香織さんは、東京理科大学理工学部建築学科の教授。都市研究者としてこれまでに360を超える都市を研究してきた。2002年に、ピクニック生誕200年を記念して「東京ピクニッククラブ 」を仲間と共に設立、公共空間を創造的に利活用するためのプロジェクトを国内外の都市で展開している。

公共空間の魅力…その一つは、人々がそこで過ごすことを上手に楽しんでいるかどうかのようです。

例として伊藤さんが紹介してくださったパリのリュクサンブール公園には、人々が自分で動かせる椅子が数多くあり、みんなそれぞれお気に入りの場所に椅子をセットして、花を見たり、本を読んだり、好きなことをして過ごしているそう。

リュクサンブール公園の写真(パリ2011年撮影) 。写真提供:伊藤香織さん

アルゼンチンの写真(アルゼンチン2010年撮影)。写真提供:伊藤香織さん

また、アルゼンチンの公共空間では、人々が日常的にマテ茶を持参して座り、何時間も延々とおしゃべりをしている光景が見られるそうです。しかも街角にあるキオスクのような売店に、空になった水筒を持っていくとお湯を足してくれて、マテ茶とおしゃべりが引き続き楽しめるというのですから驚きです。

三島市内の写真(2013年撮影)。写真提供:伊藤香織さん

一方、日本の公園や公共空間は残念ながら禁止事項が多い傾向にありますが、そんな中でも静岡県三島市では、官民協働の「街中がせせらぎ事業」が行われており、市内を流れる川に沿って整備された30ヶ所以上の場所で、人々が日常的に水に親しみ、まちなかでくつろぐ姿があるそうです。

みなさん、外で過ごすのがとても上手ですね!

東京ピクニッククラブとは?

東京ピクニッククラブはピクニックの原型を歴史に探りつつ、自由で洗練された現代のピクニックを提案。社交の場としての都市の緑地や共有スペースの利用可能性を追求している。©️TOKYO PICNIC CLUB 

さて、伊藤さんが共同主宰する東京ピクニッククラブは、2002年、ピクニック誕生200年を機に設立されました。都市の公共空間の開放を求めて「ピクニック・ライト(ピクニックをする権利)」を主張するこのユニークな団体は、建築家やグラフィックデザイナー、イラストレーターなどの多彩なメンバーで構成され、ピクニックの歴史研究や、アンティークピクニックセットのコレクション、東京のピクニカビリティの調査、ピクニックによるまちづくりなどの活動を行っています。

まずは意外と知らないピクニックの歴史や、育まれてきた文化について教えていただきました。

ピクニックは大人の社交、道具にもこだわりを

東京ピクニッククラブは豊かな時間を過ごすための道具にもこだわる。ピクニックにはホストはいない。料理は持ち寄りで、手軽なもので構わないが、自己紹介やコミュニケーションのきっかけになる工夫を重要視。遅れての参加や自己都合の退出もOK。ピクニックは「野外で自由にサボる大人の社交の場」だ。詳しくは『ピクニックの心得』を参照。

©️TOKYO PICNIC CLUB 

ピクニックが誕生したのは1802年のロンドン。最初は室内で音楽や寸劇を楽しむ集まりだったそう。「ピクニック(picnic)」の語源はフランス語に由来し、ロンドンでフランスかぶれの若者たちが取り入れたと考えられています。

19世紀は近代都市が生まれつつあった時代。都市労働のスタイルと休日の考え方が生まれ、レジャーが誕生。19世紀半ばには「ピクニックはイギリス人の風俗習慣」と言われるほど流行しました。公共公園の誕生とも時期を同じくしています。

20世紀になると、ピクニックは車と共にアメリカ新大陸に広がります。ピクニックセットが生まれたのも同時期で、当時は車に備わったオプションだったそうです。東京ピクニッククラブでは、この時代のアンティークのピクニックセットも含め、120ものコレクションを保有し、実際に使いながら楽しんでいるとのこと。

つまりピクニックはあくまで「社交の場」として誕生した文化であり、だからこそ道具や食べ物、会話などにおいても、その時間をより豊かに楽しむための「質」が重要だと言えそうです。子どもの遠足や、軍隊を発祥とするキャンプとは出発点が全く違うんですね。

ピクニックをすると分かる、まちの自由度

また、東京ピクニッククラブは、都内を中心に公園や公開空地などのさまざまな場所でピクニックを実践する活動もしています。都心部にもピクニック向きの場所は一見たくさんありそうですが、例えば新宿御苑は16時で閉門、日比谷公園は芝生に入れないなど、東京ピクニッククラブが活動を始めた頃は自由に心地よくピクニックを楽しめる場所は少なかったと言います。

伊藤さん「この20年で日本の公園の使い方も変わり、以前よりもいろいろな使い方ができるようになってきました。その場所をただ通り過ぎるだけでなく、座って食事をしてみることで見えてくる景色があったり、何が起こるのか分かるので、ピクニックはまちの自由度を測る指標にもなります。都市施設として共有されている公園が生活の中で使えないのはおかしいのではないかという意識で当初は活動をしていましたが、あちこちでピクニックをするうちに、空間が不自由なだけでなく、人の発想も不自由なのではないかということに思い至りました。公園をはじめとする都市の公共空間の使い方を限定して捉えているのではないかと。そこで、空間だけでなく、ピクニックを通して空間を使いこなせる人を増やしていこうと思い、活動するようになりました」

イギリスでピクニックコンテストを開催

2008年、東京ピクニッククラブは、イギリスのニューカッスルゲーツヘッドで10日間の参加型アートプロジェクト「ピクノポリス」を開催。ニューカッスル・アポン・タインとゲーツヘッドはイギリス北東部にある、かつて炭鉱や造船で栄えた工業都市。「culture10」と名付けられた10年間に渡る文化ツーリズム促進プログラムを推進し、「創造都市戦略の最先端の一つ」として注目された。©️TOKYO PICNIC CLUB 

東京ピクニッククラブは、ピクニックによるまちづくり実験も国内外で行っています。その一つが、2008年にイギリスのニューカッスルゲーツヘッドで開催した、10日間に渡ってまちの各所で市民参加型のピクニックをする、という大規模なアートプロジェクト。川岸の公共空間に飛行機型の芝生ステージ(マザープレイン)を設置すると共に、100個の小さな芝生を模したエアマット(ベイビープレイン)をまちの各所に出現させ、ピクニック・フィールドを展開しました。工場地帯や地元サッカーチームのスタジアムなど、このまちを象徴する場所に、大勢の市民の方がピクニックをしに来てくれました。

このイベントのハイライトは、何と言っても「ピクニックコンテスト」。このコンテストの審査の指標は「メニュー」「道具とファッション」「社交性」の3つです。例えばメニューは地元食材をテーマにする、ファッションではイベントのモチーフである飛行機にちなんでパイロットの仮装をする、社交性ではペットのための工夫や、多国籍のグループといった工夫・創造性が数多く見られ、伊藤さんはピクニックがいかに自由に楽しめるものであるかを教えられたと言います。

伊藤さん「このプロジェクトから、それぞれの人が創造性を発揮できること、何でもピクニックに乗せて、いろいろな人が関われるようにしていけることの重要性を学びました」

伝統工芸が生活に息づく金沢ではピクニックに江戸時代の下げ重が登場。ロンドンでは英国王室御用達のフォートナム・アンド・メイソンのアルキヴィストとともにイギリスのピクニックセット文化について意見交換。優れた工芸品を使いながら楽しむ豊かなピクニックが行われた。写真提供:伊藤香織さん

その後、この「ピクノポリス」のイベントは横浜やシンガポール、大阪、ロンドン、福岡などの都市でも開催。金沢や丸の内、ロンドンでは、工芸振興のグループ合同でのピクニックも開催しています。このような、その地域ならではの特性や資産を生かした市民参加型ピクニックには、みんなで地域の魅力を見える化して楽しみながら、まちづくりにまでつなげていく力がありそうです。

また、東京理科大学で伊藤さんが教える建築学科の1年生の授業では、日頃見慣れた空間を読み替えて、そこをどう居心地の良い空間にするかをピクニックというかたちでデザインする課題を行っているそうです。日常の中にある何気ない場所のポテンシャルをどれだけ上げることができるかが、この授業の狙い。私たちも「ピクニカビリティ」を磨いて、町田シバヒロをはじめとするまちの公共空間を、もっと積極的に、創造的に楽しんでいけると良いですね!

京理科大学で伊藤さんが教える学生さんたちが生み出したピクニックの様子。竹林を巡りながら食べ物をつまめるピクニックや、花のモチーフを使って空間をどんどん広げていくピクニックなど、クリエイティブな空間の楽しみ方が工夫されている。写真提供:伊藤香織さん

第2部:町田シバヒロでやってみたい!ピクニックアイデア・ワークショップ


イベントの第2部では、参加者の方々がオンライン上でチームに別れ、町田シバヒロでやってみたいピクニックプランを考えるワークショップを行いました。その結果をご紹介します。

【Aチーム】
・癒しのピクニック(ヒーリングミュージックなど)
・シャボン玉ピクニック
・ドッグラン付きピクニック
・お誕生日など記念日をみんなで祝うピクニック
・ワンデーピクニック&ナイトピクニック
・豚汁・芋煮ピクニック
・カラフルなジョイントマットをつなげていくピクニック(ドローンで空撮)
など

【Bチーム】
・流星群や皆既日食の日などに天体観測しながらピクニック(遠方の人はオンライン参加)
・燻製づくりピクニック
・楽器演奏、ダンスピクニック
・1日中プラン&ナイトピクニック
・みんなでいろんな役を演じながらピクニック
・アジアン仮装ピクニック
・スパイスピクニック
など

【Cチーム】
・サングリアづくりピクニック
・朝ピクニック
・勉強しながらピクニック(マナピク)
・野外でネットフリックスを見るピクニック
・葉っぱの皿でピクニック
・野草茶を作って学ぶピクニック
・絵を描くピクニック
・抹茶を点てるピクニック
・詩集の朗読ピクニック
など

【Dチーム】
・何も規制を設けないピクニック
・紙飛行機大会ピクニック
・糸電話どこまで聞ける?ピクニック
・昼寝ピクニック
・ビニールプールピクニック(夏の夜に)
・シュウマイなど飲茶ピクニック
・お茶会ピクニック
・ナイトピクニック
・モルックピクニック
など

このピクニックアイデア・ワークショップを経て、伊藤さんからはこんなコメントをいただきました。

伊藤さん「みなさんがこうして考えているうちにピクニックをやりたくなってきたことと、ピクニックに限らず町田シバヒロの使い方についてアイデアが広がったことが良かったです。何しろピクニックは自由度が高いので、なんでも乗っかって来られるのがすごいところ。ふとした瞬間に思いついた『これいいな!』をやってみることでピクニカビリティが高まるので、ぜひ実践していただきたいなと思います」

2019年に東京の丸の内で開催した日英工芸ピクニックの様子。©️TOKYO PICNIC CLUB

参加者の声

また、参加者のみなさまからは、こんなコメントがありました。一部をご紹介します。

・それぞれの地域でピクニックに個性が出てくると楽しそう!
・素敵なピクニックセットがあるとテンションが上がりますね! 防災備品にもなりそう。
・「移動する食卓」という言葉が浮かびました。
・食べ物も社交のツール、話題のきっかけなんですね。
・ピクニックコンテストがすごくクリエイティブ!やりたい!
・真剣に楽しむからこそ、いろんな面白い視点が出てきますね。
など

町田シバヒロを日本一ピクニカビリティの高い広場に!

2019年にロンドンで開催した日英工芸ピクニックの様子。©️TOKYO PICNIC CLUB

大人の社交・遊びであるピクニックは、キャンプよりももっと気軽に、日常的にできそうな活動ですね。自由度が高いので、いろんなアイデアをRide ONして、バリエーション豊かに楽しめそうです。どう面白がれるかは自分次第。どんなピクニックがしたいかを思い描き、町田シバヒロでもぜひ実践して日本一ピクニカビリティの高い芝生広場にしていけると、町田がますます楽しくなるのではないでしょうか。

◎今回のスペシャルゲスト


写真/鈴木 陽介

伊藤香織(いとうかおり)さん
都市研究者/東京理科大学教授
東京生まれ。2002年より東京ピクニッククラブを共同主宰し、公共空間の創造的利活用促進のプロジェクトを国内外の都市で実施。主著に『シビックプライド:都市のコミュニケーションをデザインする』『シビックプライド2【国内編】:都市と市民のかかわりをデザインする』(宣伝会議)『まち建築:まちを生かす36のモノづくりコトづくり』(彰国社)など。

◎東京ピクニッククラブについて

2002 年にピクニック生誕 200 年を記念して結成。メンバーは建築家、都市計画専門家、グラフィックデザイナー、フードコーディネーター、ランドスケープアーキテクトなど。ピクニックの原形を歴史に探りつつ、多彩なクリエーターのコラボレーションによって、自由で洗練された現代のピクニックの姿を提案する。都市居住者の基本的権利として「ピクニック・ライト」を主張し、社交の場としての都市の緑地や共有スペースの利用可能性を追求する。東京を中心に活動中。アンティークピクニックセットのコレクションは120を超え国内最大を誇る。
http://www.picnicclub.org/

◎Ride ON シバヒロについて

町田市役所本庁舎跡地につくられた、天然芝の遊び場「町田シバヒロ」を、誰かの「好き」「やりたい」がきっかけとなってつながっていく、好きを持ち寄って乗っかる場にするためのプロジェクトです。「シバヒロでこんなことをしてみたい」、「こんなチャレンジを形にしたい」を持ち込むも良し。誰かの活動に参加してサポート・応援するのも良し。自分らしい関わり方を見つけてみてください。

さまざまな企画の会議やアイデア交換などを、Ride ON シバヒロ Facebookグループにて行っております。ご興味のある方は下記よりご参加ください!

▼Facebookグループへの参加はコチラ
https://www.facebook.com/groups/1669712196517575/about

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