REPORT
【レポート】「公園の未来の風景を想像する」/Made in Serigaya パークミュージアムラボ#4
2021.06.14
芹ヶ谷公園の再整備計画が進行中です。市街地にありながら豊かな自然に恵まれたこの公園を、 「パークミュージアム」というビジョンのもと、園内の美術館と一体的に、市民の表現や活動の 場として整備しようという計画で、行政と市民が「Made in Serigaya」というプラットフォーム でつながり意見を出し合いながら、あるべき姿を探っています。
これまでの「Made in Serigaya」の活動はこちら
3月18日、「Made in Serigaya」のオンライン活動第4弾を開催。昨年実施された実証実験イベ ント「Future Park Lab」で得られた成果を踏まえ、「公園の未来の風景」がどのようになって いったらよいか、どのような変化が求められるのか、まちづくりに携わるゲストをお迎えして話 し合いました。その様子をダイジェストでお届けします。
□ゲスト
公共R不動産コーディネーター/株式会社nest取締役
飯石藍さん
遊休化した公共施設・公共空間の活用・マッチングを進めるためのメディア「公共R不動産」に 立ち上げから参画し、メディア運営に加え、全国各地の公共空間活用プロジェクトに関する相談・企画・コーディネートに携わる。2017年からまちづくり会社「nest」の取締役として、「南池袋公園・グリーン大通り」の企画・エリアマネジメントの戦略検討・事業推進など、池袋駅東 口のエリア価値向上のための公共空間活用プロジェクトを推進している。
□モデレーター
オンデザインパートナーズ
西田司さん
一級建築士。横浜国立大学卒業後、建築設計事務所スピードスタジオを共同設立。2004年、オ ンデザインパートナーズ設立。東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授、立教大学講師、グッドデザイン賞審査員。2013~16年、町田市の中心市街地整備計画策定検討委員会の一員と して、まちづくり計画「“夢”かなうまち 町田」策定に関わる。現在、芹ヶ谷公園の再整備に参 画。著書に『建築を、ひらく』(オンデザイン著/学芸出版社)、『オンデザインの実験』(オ ンデザイン著/TOTO出版)、『PUBLIC PRODUCE 公共的空間をつくる7つの事例』(共著/ ユウブックス)。
STGK代表/ランドスケープデザイナー
熊谷玄さん
現代美術作家・崔在銀のアシスタント、earthscapeを経て2009年3月より株式会社スタジオゲンクマガイ(STGK Inc.)代表。都市の大規模再開発から地方や郊外の再生計画まで人の暮らす風景 をデザインしている。千葉大学、愛知県立芸術大学、東京電機大学非常勤講師。「左近山団地プ ロジェクト」、「芹ヶ谷公園再整備プロジェクト」など、全国各地のコミュニティに纏わるプロ ジェクトにもランドスケープデザイナーとして多く関わっている。
公共空間を使いこなしてエリアの価値を上げる ~南池袋公園とグリーン大通りの事例(豊島区)
まず、今回のディスカッションのヒントになる事例として、ゲストのお一人である飯石藍さんが 東京都豊島区とともに現在取り組んでいる「南池袋公園とグリーン大通り」での実験と実践をご紹介いただきました。
飯石さんは、地元である豊島区を面白くしていこうと、地域住民らと共同でまちづくり会社 「nest Inc.」を立ち上げ、池袋駅東口にある南池袋公園とグリーン大通りの回遊性を高め、エリ ア全体の価値を高める取り組みを推進しています。
飯石さん「まずは、グリーン大通りと南池袋公園を含めたエリアの未来を妄想し、理想の風景を 描きます。その風景を実現するための実験を行い、その成果を地元の方や公園・グリーン大通りの活用検討を進める団体とも共有しながら、次のアクションを検討していく。そんな進め方でエリアの価値を少しづつ高めていくことを行っています。nestはいわば実行部隊的な存在ですかね」
その活動の一つが、毎月実施している「nest marche」、そして年1度、より大規模に開催する「IKEBUKURO LIVING LOOP」です。
飯石さん「グリーン大通りを舞台に、物販、飲食等の店舗出店、ワークショップ実施、パフォーマンス等様々なコンテンツを散りばめることで、グリーン大通りや南池袋公園を中心としたエリア一帯の賑わいを作り出していくイベントとして2017年から開催しています。地元や沿線の企業や店舗、個人、クリエイターなど様々な人が出店し、グリーン大通りに賑わいを生み出します。 グリーン大通りだけでなく、周辺のエリアマップを作成し、来場した人が池袋エリアを歩いて楽しむ仕掛けも盛り込みました。 また、表向きはイベントではありますが、実際は将来的なグリーン大通りの恒常的な賑わい創出に向けた実験をあちこちで行っています。例えば沿道のキッチンカー出店許可や、ファニチャー 設置・動線検証、照明を切り替える実験などを行いました」
さらに、ファニチャーの配置箇所と人の動線を検証するための実験や、普段使っている白く明る い照明を柔らかい光に切り替える実験なども、イベントと並行して実施されました。そしてこれらの実験結果を踏まえて、道路の照明や植栽帯のリニューアルや、サークルベンチの 常設、電源の導入といったハード面の整備が行われ、公園や通りでイベントなどを開催しやすくなる環境が整備されたそうです。
現在も、池袋駅周辺での取り組みは続いています。
飯石さん「駅の近くには南池袋公園をはじめとして4つの公園が整備されました。それらを連関させて、訪れる人がさらに歩いて楽しめる状況を作るために、今年度も豊島区や地域の人たちと一緒に様々な企画・戦略を練っています」
公園の将来の姿を想像し、創造する実証実験~Future Park Lab. レポート
次に町田市の戸田勝さんから、昨年11月14・15日に開催された実証実験イベント「Future Park Lab」についての報告がありました。
戸田さん「芹ヶ谷公園の再整備は、街のにぎわいを生み出すためのプロジェクトの一つ。町田の 未来に思いがある方に参加していただき、一緒に考えながら進めるプロセスを大切にしています。れまでいただいたアイデアをもとに、芹ヶ谷公園全体を舞台に色々な風景を作り、皆さんと共有するために開催したのが『Future Park Lab』です」
例えば、広場でペインティングと音楽がコラボしたライブを開催したり、町田市にゆかりのある音楽家が園内を移動しながらその場所に合わせて選んだ曲を演奏したり、市内の大学生が川の流れを連想させる光のインスタレーションを制作したり、移動図書館が出現したり。希望者を募って夜の公園でキャンプしたり。イベントの二日間、それぞれ自由に描いた未来の風景が、公園のあちこちに出現しました。
戸田さん「自然の中でアートを見ると新鮮な感動があると再確認できましたし、身近な公園の知らない表情を見て、さらに好きになってもらえるような体験を共有できたと思います」
Future Park Labでパフォーマンスや展示を行ったお二方からも感想をうかがいました。
五十嵐さん「芹ヶ谷公園での展示は2回目。初回とは違う場所で、違う反応をいただけたことが楽しかったです。ただ、夜の展示に向けてずっと準備をしていたので、他のプログラムはほとんど見られなかったのが残念でした」
金子さん「普段から馴染みのある場所で、公的に許可をもらってパフォーマンスできたことが嬉しい。直接リアクションをいただけたのはありがたかったですし、これをきっかけに急に知り合いが増えました(笑)。ライブが終わって帰る途中、公園内でキャンプイベントをやっているところに通りかかりました。普段であれば夜は入れない場所に明かりが灯っていて、見たことのない芹ヶ谷公園になっていたのが印象的でした」
その日の気分に合う「ステージ」を選べる公園 ~未来の芹ヶ谷公園を設計する
続いて、芹ヶ谷公園の再整備にあたりランドスケープ・デザインを担当する熊谷玄さんから、設計で配慮したことについて解説いただきました。熊谷さんは「Future Park Lab」で行われた活動や生まれたような風景が、日常の風景になることを目指したい、と話します。
熊谷さん「誰もがやりたいことを公園に持ち込み、その活動がパークミュージアムとしての表現になり、人との繋がりになっていく。そういった風景を日常的なものにするために、園内のあちこちに活動や表現のために使われる場所を設けようと考えました」
芹ヶ谷公園の再整備計画では、園内の様々な空間に合わせた特徴・機能を備え、活動や表現の ために使われる場所を「ステージ」と表現しています。例えば、今回のFuture Park Labでは、 普段何気なくみんなが通り過ぎていた“アーチの泉”や版画美術館脇の通りが、「ステージ」となりました。
ここでいうステージは、園内の様々な空間に合わせた特徴・機能を備え、活動や表現のために使われる場所のこと。
熊谷さん「コンサートのためのステージはもちろん、美術館の周りには、美術館と連動した活動ができるステージがあるといい。緑に囲まれ、自然観察ができるステージも実現できるかも。本を読むだけ、寝転がるだけのステージがあってもいいと思います。それぞれのステージに必要であれば、水道や電源、平坦な場所などを設置し、思い立った時にふらっと公園に行けば、すぐに活動ができるようにしました」
また、公園を活動的なゾーンと落ち着いたゾーンに分け、公園本来の起伏に富んだ地形を生かしつつうまくステージを配することで、公園全体の回遊性を高めたり、街との連携を取りやすくできるのではないか、とも構想したそう。
熊谷さん「誰もが自分のしたいことをして、それを見てもらえる場所を作ることで、文化が生まれる場になるんじゃないか。そういう思いで設計を進めました」
熊谷さん「設計だけでできることは限られていて、公園を利用する人たちの力も必要だと思うんです。改めて、五十嵐さんや金子さんのような『表現したい』という思いを公園がどうやったら受け入れられるかを、大事に考えていきたいと思いました」
未来の公園の風景を想像する
ここでは、参加者それぞれが思う「未来の公園」像について語り合いました。
飯石さん「まずは、使っていいんだ、と思ってもらえることが重要。『音出しはダメ』『ボール 遊び不可』等、世間一般の公園はとにかく禁止事項が多くあります。それって、ごく一部の声の大きな人の意見だということが往々にしてあるので、禁止で縛らず、やりたいという声を行政も 管理者も受け止めた上で、どうすれば実現できるかみんなで考えていくことが大事だと思います。できることが少しずつ増え、答えの糸口が見えてくると、より豊かな未来の風景が見えてくるのではないでしょうか」
西田さん「この時間だったらできるんじゃない、とか、場所を変えればいいんじゃないか、など、 アクションや周囲の環境もセットで考えたら、できることが増えるんじゃないかということですね」
飯石さん「はい。頭ごなしに禁止にしない柔らかさがあると、使うことを諦めないでいい、という意識づけになると思います」
熊谷さん「僕らが都市のパブリックスペースを設計するときいつも考えているのは、どうやって日常を持ち込めるか、ということ。僕がやりたいことは、他の誰かにとってはやって欲しくないかもしれません。それを許容する仕組みを作れるか、ということを考えています。それと、どうしても『稼げる場所』『晴れの舞台』と考えがちですが、公園の本当のよさって、恋人にふられた時や配偶者と喧嘩した時、一人ボーッとできる場所であることだと思うんです。都市で孤立できる場所としての公園、居場所としての公園の質を高めるにはどうしたらいいだろう、と考えながら設計しています。飯石さんのお話と通じますが、そのためにはゼロイチの議論にしないことが重要だと思います」
西田さん「空を眺めてポーッとしていてもいいし、好きなことをいろいろやっていい、公園にその両方があると面白いですね」
五十嵐さん「大学の授業で芹ヶ谷公園がテーマになったとき、いつでもコンサートができたらいいという意見が挙がりました。大学のホールだとある程度固定された層・数の観客しか集まりませんが、公園ならいろいろな人が集まるから自分を広めるチャンスにもなるだろう、と」
金子「散歩コースや自分の庭の延長のような場所として、ある程度人との距離を保ちつつ、自由なことができる場所として機能すればいいなあと思います。また、歩けるコースがもう少し増えて、めったに人が通らないような場所にも行けるようになるといいですね」
公園運営の鍵は、サポートしてくれる「先輩」の存在
芹ヶ谷公園の再開発プロジェクトは、市と市民とが共同で考え、作っていくプロセスを大切にしています。では具体的にどのようにすれば、みんなを巻き込み、「自分ごと」として考えてもらえるようになるのでしょうか。
飯石さん「実際に公園の整備が完了して何かやりたいと思った時、相談などを受けてくれて、行政との橋渡し役になってくれるチームや機能が必要になると思うんです。例えば、使用許可申請の出し方のコツや裏技を教えてくたり、単体では難しいことをみんなでできるイベントや実験の場を設けたり。池袋では、私たちの会社nestがそのような“よろず相談所”的な役割を担っています」
西田さん「先ほども、できる・できないの二項対立にしない、という意見が出ましたが、実現するために一緒に考えてくれる人や、経験者が先輩のように教えてくれる仕組みがあるといいですね」
熊谷さん「設計、工事、運用のフェーズごとに、空白期間を作らず、何かしら皆さんを巻き込んでいくことが大切かな、と考えています。また、僕も、コーディネート的な役割が必要だと思います。芹ヶ谷公園って、版画、工芸、植物、地形などいろいろな切り口からアプローチできる場所なので、そういう多様な間口を活かしてコーディネートできるといいなあと思いますね。めちゃめちゃ大変そうではありますが(笑)」
飯石さん「そのためにはやはり、街の人がいかにコミットしてくれるかが重要になると思います。例えば、八王子の長池公園には、薪割りを教えてくれるシルバー世代から音楽イベントを主催する若い世代までとんでもない数のボランティアがいて、運営の中心を担うNPOフュージョン長池が営利組織とも役所とも異なる柔軟なスタンスで、コーディネーター役を担っています。そういう柔らかさが、芹ヶ谷公園のイメージにも近いんじゃないかと感じますね」
西田さん「実際に活動を経験した街の人が先輩としてサポートするなど、バトンをつなぐ人をふやすイメージでしょうか」
飯石さん「そうですね。とても健全なプロセスだと思います。そういうことを踏まえて仕組みを設計できるといいと思います」
自治体や企業ではなく、市民同士がサポートし合う仕組みが、将来的に芹ヶ谷公園を運営していくための鍵になりそうです。
芹ヶ谷公園 自分ならどんなことをしたい?
最後に、観覧者からの質問に答える形で、ゲストの皆さんが意見を交換し合いました。
飯石さん「イベントをやっていない時期を利用して、座れる場所や仕事ができる机などを点在させて、使われ方の実験をしてみたい。イベント一日だけだと気づかれない恐れもありますが、一週間くらいあれば何かある、使ってみたいと認知される。家族連れだったらここを使う、一人ならこういう場所が使いやすいのか、など試したいですね」
熊谷さん「公園を言語化したい。例えば、Twitterの文字数の140字以内で表現するなど。言葉は世代問わずフラットな表現手段だから、いろいろな方が公園を表現した言葉を集めれば、それを設計にフィードバックできるんじゃないかと感じています。文学館とのコラボもできそうです」
五十嵐さん「噴水に光や映像を投影して四季を表現したい。自然を感じられるところで、現代的な手段で表現したら面白いのではないかと思います」
金子さん「多くの人が参加できそうなこと、広い場所だからこそできることをしてみたいです。 例えば、公園から街に出て、また公園に戻る音楽のパレードのようなもの。マスゲームのようなものをして、ドローンで撮影するとか」
西田さん「園内にあるもので楽器を作って駅までパレードするという先例はありますね」
戸田さん「そうですね。公園と街がつながっていくような取り組みはぜひやってみたいです」
観覧者からも、チャットでたくさんの意見や感想が集まりました。
・公園専用のプレイリストを作り、それを聴きながら園内を歩く
・俳句を作りたい
・他の人が公園で聴いている音楽を視覚化したり、何を聴いているかわかる仕組みがあるといい
・いろんなことを受け入れられる公園の懐の深さに驚いた
・芹ヶ谷公園が「ここに行けば間違いない」という場所になり、それが住んでいる街にあるとこんな嬉しいことはない
……等。
芹ヶ谷公園を「いつ行っても面白そうなことが見つかる場所」にするために、設計や運営がどうあるべきか、今回の話し合いを通していくつかの糸口が見えてきたのではないでしょうか。
Made in Serigaya では引き続き、活動を続けて参ります。
ぜひ一度公園にいらしていただいて、「自分ならこんなことをやりたい」「こういうことを試してみよう」など感じたことや思いついたアイデアをお寄せください。いただいたアイデアを試す「実証実験」も並行して行なっていきます。一緒に芹ヶ谷公園の未来をつくっていきましょう!
Made in Serigaya お問合せ先 made.in.serigaya@gmail.com