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【レポート&動画】 五感で楽しむ映画祭の作り方 〜夜空と交差する森の映画祭に聞く、新しい映画体験〜

2022.03.23

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2020年の春にスタートした「RIDE ONシバヒロ」。町田市民の「好き!」「やりたい!」をシバヒロで形にしていくプロジェクトです。RIDE ONシバヒロでは、町田の人が形にした「好き!」に乗っかることで、シバヒロでしか起きない”何か”を生み出すことを目指しています。

今回は、そんなRIDE ONシバヒロの一環として9月24日に行われたオンラインイベント「五感で楽しむ映画祭の作り方 〜夜空と交差する森の映画祭に聞く、新しい映画体験〜」の様子をレポートします。

芝生でごろんシネマ

2020年に開催された芝生でごろんシネマの様子

芝生でごろんシネマは、町田シバヒロで行われている野外映画上映会。「映画館のない町田で映画を観たい!」という地元の方の声から、2019年にスタートしたイベントです。「参加する人みんなでイベントを作っていく」ことを大切にしており、形を決めずに、回を重ねるごとに少しずつ「ごろんシネマらしさ」を作っているのが特徴です。

近年では、ごろんシネマのような野外上映会が色々なところで行われていますね。さらには、単に映画を上映するだけでなく、料理と一緒に楽しむ、寝転がりながら楽しむ、というように、個性的な映画上映イベントも増加しています。

今回のオンラインイベントでは、2014年にスタートした「夜空と交差する森の映画祭」にて実行委員会の代表を務めている株式会社エノログ代表取締役のサトウダイスケさんをゲストに迎え、毎年コンセプトと開催場所が変わる個性的な映画フェスのこだわりや裏側についてトークが行われました。

クリエイティブディレクター・サトウダイスケさん

サトウダイスケさん 株式会社エノログ代表取締役・森の映画祭実行委員会代表 クリエイティブ・ディレクター。映像制作を中心に活動しているが、つくりたいモチベーションが枠を飛び越えるため複数の分野の掛け算でものづくりをしている。最近は特にVRを勉強中。

指示を出すだけでなく自ら創作することも多いため、自身を「現場寄りのクリエイティブディレクター」と表現するサトウさん。野外映画フェスに加え、北欧体験アウトドア施設「ノーラ名栗」や車内音楽フェス「ドライブ・イン・フェス」のクリエイティブディレクター、SHOWROOM社が手がけるバーティカルシアターアプリ「smash.」のコンセプトアシスタント&ディレクター、短編映画の監督・脚本・編集など、分野にとらわれず、自身が持つスキルをかけ合わせて様々なプロジェクトを手がけています。

「飽きやすくて色々なことに興味を持ってしまうので、幅広くやっています」と語るサトウさん。森の映画祭を始めたきっかけも、自身が短編映画を作っていたからなんだとか。そんなサトウさんがディレクションする「夜空と交差する森の映画祭」は、一体どのような映画祭なのでしょうか。

フェスがもたらす「偶然の出会い」

「夜空と交差する森の映画祭」(以下、森の映画祭)は、2014年に第1回目が開催され、今年で8年目を迎えます。当時20代半ばだったサトウさんは、どのように森の映画祭をスタートさせたのでしょうか。

サトウさん「野外映画上映が今ほど盛んに行われていなかった2014年に、友人とその友人くらいの人たちを50人ほど集めて野外映画上映をやってみようかなと思ったのが始まりです。

上映会を実施するにあたってコンセプトを詰めていくうえで、音楽フェスとのコンセプトの融合を思いつきました。音楽フェスはステージが複数あるので、もちろん目当てのアーティストがいて足を運んではいるけれど、そのアーティストが演奏してない時間や会場を移動している時間に、なんとなく音がきこえたからそっちに向かっちゃうというのが起こりますよね。音楽フェスでアーティストとの偶然の出会いがあったという自分の体験から、それを映画でも同じことができないかな、と思ったのがフェス形式になったきっかけです。

森の映画祭も、映画を見ている時に、隣のステージの音が聞こえてくるんです。音が被っているのが良いのか悪いのか難しいところではあるんですけど、あえてそこを大事にしています。」

音楽フェスと野外上映会のコンセプトが融合することで誕生した森の映画祭。スクリーンのある上映会場には、毎年コンセプトに沿った個性的な名前が付けられています。さらに、森の映画祭では毎年60本以上の短編作品が公開されているのも特徴的。メイン会場では、その年のコンセプトに合った長編作品を上映し、その他の会場では30分以内の短編作品を上映しているそうです。

サトウさん「全部のステージで長編を流すと被ったりしてなかなか観れないけれど、短編だとサクッと楽しめて、あっちに行ったりこっちに行ったり色々試してもらうことができる。それにはオールナイトでやるしかないと思ったので、18:30から翌朝5:00までずーっと観てもらえるように座組を考えています。

ハリウッド映画の「セッション」がもともと短編だったように、短編を名刺代わりに、プロデューサーを探して長編映画を制作する、という流れがインディーズ映画にはあります。自分も短編映画に関わっている身としては、いかに見てもらうか、知ってもらうかが重要だと思っていて、そう考えるとフェスという形式はすごく合ってるなと感じています。

公民館で短編映画をやりますって言ってもなかなか人が来ないと思うんですけど、フェス自体にエンタメ性を持たせてお祭り感を出すことで、普段短編映画を観ない人にも作品を届けることができる。お客さんからは、短編映画見たことなかったけどおもしろいねっていう声もかなり多いので、こういう座組にすることでそういう偶発的な出会いを恣意的に作っている部分はありますね。」

森の映画祭が創る「映画体験」

「偶然の出会い」を演出するためにフェス形式で開催されている森の映画祭には、大切にしている3つのキーワードがあると言います。

1つ目のキーワードは、EXTEND(拡張)。これはスクリーン以外で展開できることを考えるという視点で、森の映画祭では、映画を鑑賞する環境づくりに力を入れています。単にスクリーンで映画を映すだけではなく、「お祭り」らしく会場の装飾にもとても力を入れているそうです。

夜空と交差する森の映画祭2019の様子

2つ目のキーワードはCONTEXT(文脈)。毎年コンセプトを決め、映画祭全体にストーリーを持たせることに強くこだわっています。映画祭全体のコンセプトに加え、各会場にもテーマを設けているため、世界観に没入できるよう、会場に行くまでの動線にもこだわりを持ってデザインしているそうです。

また、上映作品の95%が公募だという森の映画祭ですが、上映作品はその年のコンセプトから連想できる部分、繋がる部分がある作品を選んでいるそうです。コンセプトについては、後の質疑応答のコーナーでさらに詳しいお話がありました。

夜空と交差する森の映画祭2017のパンフレット http://portal.forest-movie-festival.jp/fmf2017.html

3つ目のキーワードは、SHARE(共有)。「誰とこの映画祭に行きたいか」をイメージさせるイベントにしたいと考えているそうです。さらに、このSHAREという枠組みのなかでサトウさんがこだわっているのが、「事後伝達性」。

サトウさん「思い出って脳のなかにあると思うんですけど、手元に物を残しておくことで思い出してもらいやすいと思っているので、思い出の延命措置ができるかなという理念のもと、なるべく捨てられないクオリティのパンフレットをしっかり作って、参加者全員に無料で配布しています。その時楽しいだけじゃなくて、10年後も思い出してもらえる映画祭にしたいので、捨てられないクオリティのものを作ることで、事後伝達性を含ませることを意識しています。」

森の映画祭の過去のパンフレット

森の映画祭のパンフレットは、おしゃれな文庫本のような年もあれば、ハードカバーの絵本のような年もあり、毎年デザインも装丁も全くことなる魅力的なものばかり。そして、単に見た目が素敵なだけではなく、その年のコンセプトに沿ってデザインされているというからたまりません。

例えば、栃木県のサーキット場にて、「交差」をテーマに開催された2018年は、リング式でページを自由に追加したり抜いたりできるパンフレットを作成。事前に自分でページを追加した人は腕にピンクのサイリウムを付けて映画祭に参加し、話しかけたらページを交換できる仕組みにしたそうです。「人と人の出会い、作品との出会い」というコンセプトをパンフレットに具現化しているんですね。このように単にスクリーンの前で座って映画を観るだけでなく、コンセプトに沿った、10年後も忘れない映画体験を提供しているのが森の映画祭のこだわりです。

みんなが聞きたい映画祭のあれこれ

参加者からもらった事前アンケートからピックアップしたテーマBOX

続いてのトークセッション・質疑応答セクションでは、参加者からもらった事前アンケートからピックアップした9つのテーマと、参加者からリアルタイムでチャットに寄せられたコメントや質問をもとにトークが行われました。トーク・質疑応答セクションの様子をハイライトでお伝えします。

〇コンセプトはどのように決めていますか?

サトウさん「1年に1回1晩しかやらないイベントなので、1年生きてると色々と思うことがあって、その年に感じているモヤモヤが1つのキーワードになったりしています。こういうご時世になって、打ち合わせ前に寄り道したり、打合せ後にエレベーターホールで雑談をするっていうことが起きなくなってきていて、そういう寄り道が足りてないなと思ったので、2021年は寄り道というコンセプトにしました。その年に感じているものを、説教くさくない範囲で結晶化したものがコンセプトになっていると思います。」

〇サトウさんが映画祭を開催される際の「世界観」ってご自身の発想をカタチにされているのでしょうか?また、どこからかインスピレーションを得ているのでしょうか?

夜空と交差する森の映画祭2018の様子 夜空と交差する森の映画祭2018 | MORI NO EIGASAI PROJECT (forest-movie-festival.jp)より抜粋

サトウさん「全体のコンセプトは、代表補佐のちばひなこさんと一緒に考えています。毎年一緒にカフェで話し合って、各自持ち帰って頭を抱えてというのをくり返して、アイデア出しをしています。それぞれの得意分野や趣味嗜好ををぶつけて中和していく感じですね。

エリアごとの世界観づくりは、集まってきたボランティアスタッフのみなさんに考えてもらってとりまとめています。ボランティアの方は、その年の全体のコンセプトを見たうえで集まっているので、大きく外れたものは出ないというか、向いている方向は同じなので調整はしやすいです。」

〇公募だと上映料が安くできるのでしょうか?

夜空と交差する森の映画祭2017の様子 夜空と交差する森の映画祭2017 | MORI NO EIGASAI PROJECT (forest-movie-festival.jp)より抜粋

サトウさん「うちの場合、公募作品は無料上映としているので、映画祭のチケットを何枚か渡すようにしています。森の映画祭のメリットとしては、Filmarksという映画レビューアプリに載ることですかね。インディーズの作品は基本的にホームページがないんですが、森の映画祭で上映されるとFilmarksに自動的に自分の作品がレビューされるページができて、映画祭が終わるころにはけっこうな数のレビューが並びます。賞をあげれない代わりに、森の映画祭自体の雰囲気を楽しみに来ている人に流れで短編を見てもらえることが多いので、一般の方に見てもらえるお披露目の場としてはかなり大きいのかなと思います。

また、短編映画は、1回上映の相場があまり決まっていないんです。長編映画は一般的に権利を取り仕切っている会社が値段を決めて権利を代行営業しているのですが、短編映画はマネジメントしている会社があるわけではないので、上映料は基本的には高くないですね。なので、今後野外映画のイベントを企画される際には、メジャーな映画は呼び水にはなると思うんですけど、ひとひねりしたいということであれば、前座で短編映画2本くらい流した後に長編映画やってみるのもおすすめです。」

〇かなり規模が大きいイベントだと思うのですが、運営はどれくらいいますか?

愛知県の佐久島で開催された夜空と交差する森の映画祭2017の会場地図。イベントの規模の大きさが伺える。

サトウさん「今年はオンラインでの開催なので30人くらいですね。1番多かった年は200人です。毎年コンセプトの発表をだいたい3月にやるんですけど、その時期は超コアメンバーの4人だけで動いています。そこからスタッフを集めて40人くらいになって、当日だけのメンバーが150人近く加わり200人になります。

森の映画祭の組織は特殊で、1年に1回だけイベントがあって、イベントが終わると必ず2週間後には打ち上げをして解散するという、スクラップビルド方式にしています。映画祭のコンセプトを発表して、その年の映画祭がおもしろそうだと思ったらまた応募してねというスタイルです。毎年、コンセプトも場所も変えて気持ちを刷新しているので、その年にまた賛同出来たら来てねというスタイルにするために、強制解散している感じですね。組織的には、スタッフが集まるか集まらないか分からないし、終わった時の熱い気持ちのままいてもらったほうが楽かもしれないけど、ウチのスタイルとしてはあっていると思います。」

〇募集するときは最初から細かに役割ごとに募集されるんですか?

サトウさん「かなりフラットにスタッフを集めているので正直全く決めていないですね。今年は全スタッフとZOOMで面談して、どういう動機でイベントに参加するのか話をしました。普段会社でやっていることを活かしたいと思って参加する人もいれば、仕事とは全く関係ないコミュニティを作りたい人、新しいスキルを得たい人もいるので、1度みなさんの話を聞いて、今年はこういうチームを新しく編制したほうが良いかなどと考えています。ある程度は同じところにたどり着くものの、毎年役割も考え直していますね。」

〇スタッフ同士の情報共有については、どんなツールを使っていますか?特に今はオンラインなので…

サトウさん「チャットワークというアプリを使っています。イベントが近づくとけっこうメッセージのやり取りが激しくなるので、なるべくプライベートと分けられるように、年々ラインは使わないって強く言っています。超コアメンバー4人がチャットに入っておいて、困っていることがすぐに拾えるよう土台作りをしています。もちろんラインでしか話せないこともあるのでそういうのも良いと思うんですけど、ラインで全然見えないところで悩まれちゃうくらいだったら、なるべく見えるところで情報共有しながら話してねという形にしています。」

〇いま、どこか映画祭をやりたい場所はありますか?

サトウさん「これが1番困った質問ですね。2年間家にこもっているので。普段だと色々な所に行って、ここでやってみたいなとか発想が広がりやすいんですけど、最近寄り道していないので、頭のなかで化学反応が起きないんですよね。今年オンライン開催になってしまって、ノーラ名栗でできなかったのでやりたい気持ちと、関西のほうで開催してほしいという意見もすごく来るので、関東から離れた場所でやってみたい気持ちはあります。

あとは、森の映画祭はゲームとかの影響をかなり受けていて、舞台として冒険活劇をイメージしているので、海のエリア、森のエリア、滝のエリアといったように、様々な顔がありつつ、歩いてもそれぞれ20分くらいの場所があれば理想ですね。滝がうるさいからみんなヘッドフォンで観るとか、そういう変わった地形でやりたいなと思っています。」

〇もしサトウさんがシバヒロで映画祭をやるとしたらどんな映画祭をやりますか?

夜空と交差する森の映画祭2015の入場ゲート 夜空と交差する森の映画祭2015 | MORI NO EIGASAI PROJECT (forest-movie-festival.jp)

サトウさん「森の映画祭では、木があるから装飾がしやすく、かなり助けられている部分でもあります。シバヒロのようにフラットだと空間として上下を使うのがすごく難しいなと思います。なのでバルーン系のものとかをヘリウムで浮かせるとかになるのかな。大きいものとしてはスクリーンを立てる土台だと思うんですけど、私はそこを全力で活用することが多いです。結局1番視線がいくのはそこなので、スクリーンの周りに装飾、電飾をしたりとか。

シバヒロのような広い場所を使うならまんべんなくものを作るのは難しいので、まず1つゲートをしっかり作ってあげるかな。ゲートって気持ちの転換点、スイッチなので、入る前のワクワク感を演出するのがすごく大切だと思っています。あとは広い地面を使った観客席をどうするかですね。例えばレジャーシートの色をカラフルにするとか、映画のコンセプトにあったものにするとか。面積が広いところをどう色付けするかでかなり印象が変わってくるので、そういうことを考えると思います。」

参加者からの質問・コメントが多く盛り上がったトーク・質疑応答セクション。コンセプトの決め方といったクリエイティブな側面から、組織運営的なお話まで、映画祭の裏側をたっぷりと聞ける充実した時間となりました。

映画祭をやりたい!

夜空と交差する森の映画祭2021のメインビジュアル

イベントの最後には、なんとサトウさんから嬉しいサプライズが。イベントの約2週間後に行われた「夜空と交差する森の映画祭2021」の割引コードを、今回のオンラインイベント参加者だけに特別に発行してくださいました。既にチケットを買ってしまった方には、サトウさんから特別にグッズが届くというワクワクするフォローまで。

このサプライズは、イベント直前の打ち合わせで急遽決定したそうです。アイデアの豊かさと、それをさらりと実現してしまう行動力。サトウさんの人柄が垣間見え、森の映画祭が多くの人に愛される魅力的なイベントになった理由が分かった気がします。

夜空と交差する森の映画祭2018の様子 夜空と交差する森の映画祭2018 | MORI NO EIGASAI PROJECT (forest-movie-festival.jp)より抜粋

今回のオンラインイベントは、参加者の1/3が「自分で映画祭を企画したい!」という方々。東京・神奈川など町田近郊だけでなく、熊本、広島、京都、奈良、大阪、群馬など、全国各地から、幅広い年齢層の方が参加していました。老若男女関係なく人を惹きつける「映画」というコンテンツの力を感じます。

さらに、映画祭に行きたい!ではなく、映画祭をやりたい!という人が多いというのも興味深いところ。来年、再来年と森の映画祭がどんな魅力的な映画体験を創り出すのか、そして町田の芝生でごろんシネマではどんな映画体験が生まれていくのか。野外映画の未来が楽しみですね。

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