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【レポート】Made In Serigaya パークミュージアムラボ#5 みんなでつくる活動のコミュニティ~地元を楽しむ暮らしのコミュニティ~

2021.09.21

芹ヶ谷公園では「パークミュージアム」というコンセプトに基づき、再整備計画が進められています。この計画は、市街地にありながら豊かな自然に恵まれたこの公園を、園内の美術館と一体的に市民の表現・活動の場として整備しようというもの。町田市では市民をはじめとした公園利用者・関係者からの声を集め、実践していくためのプラットフォーム「Made in Serigaya」を立ち上げ、開かれたプロセスを大切にしながら、立場を超えて公園の新たな活用について話し合うイベントを開催してきました。

これまで「Made in Serigaya」で開催した市民参加イベントはこちら

8月16日には、第5弾となるオンラインイベントを実施。地域コミュニティの運営に携わるゲストをお迎えし、地域のみんなで協力しながらイベントを開催するための秘訣やそこから生まれる新しい価値についてうかがいながら、今後の魅力的な公園づくりやMade In Serigayaの活動について考えました。

ゲスト:おきなまさひと
まちびと会社VisionAreal(ビジョナリアル)共同代表
福岡県久留米市で「このまちでみんなで食っていくんです。」を合言葉に、コミュニティスペースやシェアオフィスの運営、市民活動の伴走支援、企業や教育機関と地域との縁結び等、暮らしに関わるプロジェクトを、フリーランサーや行政職員、大学教員、企業の社員等、地域のキーパーソンと共に手掛けてきた。最近では、オンライン公民館など、その地に住み関わる者同士が主役となるようなローカルプロジェクトのコーディネート役として全国各地で活動している。

ファシリテーター:西田司
東京理科大学准教授/オンデザインパートナーズ
1976年神奈川県生まれ。1999 年横浜国立大学卒業後、スピードスタジオ設立。2002~07年東京都立大学大学院助手を務め、2004年株式会社オンデザインパートナーズ設立。現在、同事務所代表。使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する。明治大学特別招聘教授、大阪工業大学客員教授、立教大学講師。

地元を盛り上げるべく活動する、さまざまな人の知恵を合わせる ~久留米「まちびと会社」の事例~

1.まちで暮らしながら活動し、まちに役立つモノ・コトをつくる「まちびと会社」

今回のゲストであるおきなさんは、久留米で合同会社を運営しています。そのミッションは「まちを使う人の役に立つこと」だといいます。

おきな「自分たちが好きなことや大切に思う人のために、自分たちが選んだ場所−−まちや公園−−で暮らしながら活動して、『あったらいいな』を作っている人たちを『まちびと』と定義して、そんな『まちびと』たちと一緒にまちで出来事をつくる活動をしています」

おきなさんはもともと料理人で、飲食店を営んでいました。そこでユニークな活動をしている人に出会ったことが今のおきなさんの活動に繋がっています。

おきな「子育て中のパパたちのサークルを主催しているお父さん、7つの保育園の合同イベントを主催するお母さんなど、一見どこにでもいるパパママなのに実はおもしろいことをやっている人がたくさんいたんです。僕自身もそういう人たちと関わるうちに、イベントにどんどん参加するようになりました。やがて地元の百貨店から、屋上に新設する親子広場に付随するカフェをやらないか、また、ただ店を出すだけでなく、ニーズの収集、裏方としてのイベントサポートといった役割も担ってくれないか、と声をかけていただいたんです。これはやってみたい! と思いました」

その頃盛り上がり始めたSNSをプロモーションに活用したり、面倒な書類作成・諸手続きを代行したりすることで、さまざまな人が主役になって、自身が思い描くイベントを実現できるようになりました。

とあるママさんの「いい出来事(イベント)には愛を持った主人公がいる」という一言がヒントとなって、まちびとの3つの役割に気づいたそうです。

・キーパーソン
何かをやりたいと言い出し、まず最初に動く人。実現のための道を切り開くのは簡単ではないが、実現すると多くの人から共感を集めるようになる。

・エリアパーソン
キーパーソンのサポート役。伴走してくれたり、アドバイスをくれる先輩のイメージ。
・コアパーソン
例えば商店街の理事長のような、地域の長老、大御所的存在。一見怖いけれど、裏で若い世代を応援してくれている。

こうした役割を果たしてくれる人がいるからこそ、まちびとはまちのための活動を続けられるのです。

2.全国の先人の知恵を学ぶChietsuku, PJT

あるとき久留米で、今回のファシリテーターである西田司さんによるセミナーが開催され、おきなさんも出席します。そこで知った東日本大震災被災地での復興・まちづくり活動「ISHINOMAKI2.0」に刺激を 受け、2014年、おきなさんは新たに「Chietsuku,PJT (チエツクプロジェクト)」を立ち上げました。

おきな「まちの面白い人たちに、勇気を持って声をかけてみたんです。『何か一緒にやりませんか?』と。そうやって集まってくれた、業種やエリアもこれまで育ってきた環境も全然違う人たちの知恵と知恵をくっつけて、このまちで『食っていく』ためのプロジェクトです」

「Chietsuku, Pjt」のチラシ

このプロジェクトでの最初の活動が「知恵つく講座」でした。コンセプトは「この街でみんなで食っていくんです!」。 “各地の街で食っている人=街の力となっている実践者”を県外から招聘し、知恵を共有してもらうための学びの場です。
おきな「ここではいくつかルールを決めました。まずは、自分たちが知らないことについて話していただくこと。そうやってお呼びした方々は、行政の方、ゲストハウスのオーナー、福祉、農業など多岐に渡ります。もう一つのルールは、あまり広範囲から集客しないこと。僕が一緒にやっていきたいと思う人にだけ声をかけました」

ゲストの主張に対して、自分はどう感じたか、自分ならどうするか。反対意見もありましたが、そこからたくさんの「問い」が生まれ、自分たちのことを知るきっかけにもなったそうです。そして2年目からは自分た ちで、「久留米移住計画」、市長と若手起業家のタウンミーティング、シェアオフィスの運営など、まちづくりのためのさまざまなプロジェクトを実行していきました。

3.まちの活動をオンラインに集約した「オンライン公民館」

オンライン公民館の活動(一例)

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大や相次ぐ自然災害により、Chietsuku,Pjtの活動も変化を余儀なくされました。

おきな「地域が機能不全に陥り、集まって支え合おう、シェアしようとしていた活動ができなくなってしまいました。じゃあ何ができるんだろうと考え、思いついたのが『オンライン公民館』でした。まちの中にあった活動や拠点を、小さく集めて実践する試みです。例えば、今まで数10人から100人でやっていたイベントを、10人以下で、毎週日曜に30分から1時間程度、オンライン開催してみました」

ある1日を例に挙げると、朝はお寺からのお経の中継、次は働き方に関するトークセッション、昼は料理のワークショップやご飯会、夕方は美容のワークショップ、夜は人生相談……。こうしたイベントを一日10本程度実施しています。

このように、従来とは形を変えながらも活動を続けるために大切なのは「対話」だった、といいます。おきな「イベントやコミュニティも、まずは自分たちサイズでやってみて、そこから共感・実感を広げ、新たな自治を生み出していこう、という方針です。今後も面白いと感じることを大事にしながら、相手が行政や企業であっても、まずは人対人として対話を重ね、一緒にやっていこうと思います」

おきなさんにとっての「みんなでつくる活動のコミュニティ」とは、「出来事をつくる主人公(キーパーソン)と徹底的に対話し、行動を積み重ねることで感じる手応えが循環する場」なのです。芹ヶ谷公園の再整備を考える上でも、大切にしたいポイントがたくさん見つかるお話でした。

トークセッション

次に、Made in Serigaya事務局から用意したテーマや、チャットで寄せられた質問を元に行ったトークセッションを、ダイジェストでご紹介します。

1.活動のはじめかた・仲間の集め方

西田「何かを始める時、一人であることが多いと思うんです。そういう時に地元でメンバーを集めるやり方、おきなさんはどうしていますか?」

おきな「僕は人懐こいので惚れちゃう。そこからです。また、やり方がわからなければ、まず、実際に動いている人や事情を知っている人に聞きまくることです。また、人を巻き込むことだけを考えず、まずは自分が巻き込まれてみることも大事です。そうすると自然と仲間が増えているはずです。それと、規模や数字にこだわってスポンサーから協賛がついたりすると義務や責任に縛られてしまうので、最初は小さいサイズから始めることが大事だと思います」

西田「人に来てと声をかけるだけじゃなく、まず自分が行ってみるというのは眼から鱗ですね」
やりたいことがあったらためらっている時間がもったいない。まずは先人に学び、無理せず自分サイズで。これがスタートするための秘訣とのことでした。

2.withコロナの活動とコミュニティ どうする?

おきな「コロナ禍だけでなく災害も多い昨今、コミュニティの活動が制限されてしまうのはやむを得ない状況。ならば、コロナ禍で生まれた問い自体をイベントにしてしまうんです」

例えば、この状況下でどうやってイベントを開催するかという話し合いの場を設けたり、台風がきている時、それぞれどう過ごしているかをシェアしたり、防災の知恵をレクチャーしたりする「オンライン避難所」を立ち上げたりしているそうです。

西田「サービスを提供する側と受ける側という感覚ではなく、お互いが言い合える環境って、言われてみたら確かにないですね。コロナ禍についても、そこでどうしたいかを考えるとか、他の人の意見を聞くという意味を含めてイベント化するという考え方にハッとしました」

3.地元だからこその活動の楽しみ方

おきな「コロナ以前は、まちに箔が付くようなキラキラした催しをたくさんやってきました。そういうことがまったくできなくなった今、それとは正反対の、地元に暮らしているからこそ見える光の当たらない部分を面白がるようになっています。例えば商店街の人たちとの交流など、かつてはむしろ拒んでいた側面です。でも実際に、今まで文句しか言われたことがないと感じていたおじちゃんおばちゃんの話を聞いてみると、正論だったりするんです」

そうやって話を聞きに行っているうちに、いつの間にか信頼関係ができていたそうです。
おきな「我々世代は、一度話が通じないと思ったらすぐその関係を絶ってしまいがちですが、上の世代は切らないでぶつかってきてくれるんです。こちらがそこに食い下がると、向こうは心を開いてくれるんですよね。そういうコミュニケーションを学びました」

西田「参加者の方からも『長い年月活動していると、活動を通して子どもも大人もお互いの成長を見ていける、一度外に出た人がまた帰って来られる場所があるのがいい』とコメントをいただいてます」

おきな「すてきですね」
世代や職種など、自分と異なる人たちと関わり学ぶことができるのは、地元だからこそできることなのかもしれません。

4. まちや公園が担う役割とコミュニティ
西田「公園には、日常的な遊び場、いろいろな人が行けるサードプレイス、といった役割があります。そのほか、何かあった時に集まれる場所でもあります。この辺りはおきなさんから見ていかがですか」

おきな「防災に関して、まちや公園が担う役割は大きいと思います。ただ、いざ事が起こってからでは遅いので、日頃からちゃんと集まって対話をすることでお互いを知り、コミュニティを「自分ごと」にしておくことが大切です」

コミュニティには、人懐こい人、内気な人、ひとりでいたい人など、さまざまな人がいます。そういう人すべてを疎外しない場所を作りたい、とも。

おきな「ある方がChietsukuで『いつでも何歳になってもどういう状態になっても、必要とされて自分の力が発揮できるようなまちっていいよね』と言ったんです。それは、無理にしゃべらなくてもそこにいていい場所でもあると思います。そんな場所を作るにはどうすればいいのか、常に考えています」

西田「コミュニティの話になると、いかに人を巻き込むかという話になりがちですが、巻き込みたくないし巻き込まれたくない人もいるし、一人でいたい人を尊重するのも大切ということですね」

5.未来の公園

西田「公園で何かをやるにも、手続きやルールが面倒だったりすることが障壁になっている場合があります。そういう公園が未来にどうあるべきか、おきなさんはどう考えますか?」

おきな「芹ヶ谷公園のように『プロセスを大事にする作り方』って、これからのまちづくりのあるべき姿だと思います。アートを絡めた開発ということもすごくうらやましいですね。商業や教育が主目的になると展開が限られがちですが、アートなら自由度が高いので」

6.コロナ禍で、できることとできないことはどう線引きをしている?

西田「『自粛警察』という言葉があるように、コロナ禍では何かしようとするとつい萎縮してしまいます。この辺り、どこまでできるのかという線引きはどうしていますか?」

おきな「感染を広げないためのルールを作り、徹底すること。まちでも公園でも、みんなの場所を使うからにはこれは絶対条件です」

7.活動に反対する人への対応は?

西田「先ほど、おきなさんの活動に対して反対していたり距離を取っていた方もいたというお話がありましたが、そういった方にはどう対応してどういう結果になったか、という質問が来ています。そういえば、かつて久留米市で総合文化施設「久留米シティプラザ」の設立計画が持ち上がった際、おきなさんは反対していましたね」

おきな「お金をかけてそんな大規模なものを作ってどうなるの、と思っていました。ただ、実際の数字やプロセスを調べてみたら、自分も関わってみたいと思うようになりました。その時久留米市がすごかったのは、反対していた僕らと共にプロジェクトを進めるという決断をした事です。以来、市とはよい関係を保っています。まちづくりでは、反対している人たちともコミュニケーションを取り、疎外しないことが大事だと思います」

8.まだ参加していない人にはどうアプローチする?

西田「こちらもチャットの質問です。街のことやイベントを知らない人、何かしたいがきっかけを見つけられない人にどのようなアプローチをされていますか?」

おきな「積極的にはアプローチしません。我々のまち特有のことかもしれませんが、あまり熱心に誘うとかえって来てくれないんです。先ほどお話ししたオンライン公民館も、知り合いどうしでじわじわ広がっている状況。そこでの活動も、やりたい人に手を挙げてもらう形にしています」

ちなみに、オンライン公民館での活動は、先述したように、コロナ禍で止まってしまった活動をオンラインに集めて実施してみた、という試みです。

西田「自分たちが普段やっていることがオンラインを通していろいろな人に見られるようになるって、公園のあり方に近い気がしますね。オンラインを公民館的に使うというのは新鮮でした」

まとめ:地元を楽しみながら暮らすには?

今回はおきなさんから、「地元を楽しむ暮らしの作り方」のコツについてお話しいただきました。
おきな「先ほどもお話ししたように『実感の循環』が大切です。今までは誰が作ったかわからないものを消費するだけでしたが、そうではなくて、行動やイベントを通して得た誰かの実感を、参加した人同士で共有し、また別の人につないで循環させていかなければ、と思うんです。数や大きさではなく、そういう循環を生み出すことが大切だと思います」

例えばオンライン公民館での活動は、企画によって、対話型、講演型、ラジオ型など、スタイルはそれぞれ異なるそうです。その様子を大画面で見てもらえるリアルの場を数カ所設けて、ネットに繋がれない人でもそこに行けば参加できるようになっているそうです。

このように規模にこだわらず、形式も柔軟に変えていけば、さまざまな人が活動に参加できるようになり、自分ごととして考える機会にもなるでしょう。こうしたやり方は、Made in Serigayaの活動でも応用できそうです。

おきなさんのお話では「実感の循環」という言葉が印象的でした。公園づくりでも、自分や地域の他の人、あるいは次世代、それぞれが抱く思い—つまり実感—をつなげ、掛け合わせていくことができれば、よりよいアイデアや活動が生まれていくのではないでしょうか。

最後に町田市の戸田勝さんから、今後の芹ヶ谷公園に関する取り組みについてご紹介がありました。
戸田「おきなさんのお話から、いろいろな方としっかり対話しながらプロジェクトを進めることが大事だと再認識しました。今後もそのプロセスを大切にしながら、公園整備やMade in Serigayaの活動を進めていきたいと思います。最新情報を皆さんに知っていただくためのSNSも稼働中ですので、よろしければフォローして、ご意見をいただければと思います」

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「芹ヶ谷公園パークミュージアム(町田市公式)」@serigaya_p_m

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「芹ヶ谷公園パークミュージアム(町田市公式)」@serigaya_park_museum

Made In Serigayaでは引き続き、芹ヶ谷公園の未来を考えるイベントをオンラインやオフラインで開催していきます。9月には、昨年11月に開催され好評だった実証実験イベント「Future Park Lab」を実施予定です。状況を見ながらご案内させていただきますので、こちらもよろしくお願いいたします。

今年の「FutureParkLab(フューチャーパークラボ)2021 September」の情報はこちら

今回ご参加の方がグラフィックレコーディングを描いてくださいました! ©小林礼奈

第1回のレポートはこちら

ぜひ一度公園にいらしていただいて、思いついたことや感じたことをお寄せください。一緒に芹ヶ谷公園の未来をつくっていきましょう!

Made in Serigaya お問合せ先 made.in.serigaya@gmail.com

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